はじめての、えっち。-2
もうすぐ大学も卒業、4月から待ち受ける新しい世界に、期待と不安が入り混じる季節。
千春は、幼なじみの浩紀からプロポーズを受けた。
「俺のお嫁さんになってくれる?」
なんて、彼らしい飾り気のない言葉。
ずっと大好きで、そばにいるのが当たり前だった相手からのそんな気持ち。
千春は嬉しくて照れくさくて、ただ「うん」とだけ返すのが精いっぱいだった。
近所に住んでいるので、そのままお互いの両親にふたりそろって挨拶を済ませ、お祝いムード全開の夕食も終わった後。
浩紀の部屋でふたりきりになったあたりから、様子がおかしくなった。
壁にもたれて、並んで座っているだけなのに、ものすごくドキドキしてしまって、うまく会話が続かない。
「なんだよ、チイ、黙って下向いて……あ、お腹痛いとか? だから言っただろ、いくら肉が好きだからって言っても、あれは食い過ぎだって」
「ち、違うよ! だいたい、そんなに食べてないし!」
「あはは、やっとこっち向いた。もうちょっとしたらさ、しばらく会えなくなるから……ちゃんと顔、見せて」
「あ……」
そうだった。
浩紀は、4月からの仕事の関係で、地元から遠く離れた場所に行ってしまう。
一緒についていきたいと思ったけれど、千春にもやっとの思いで勝ち取った就職先がある。
『結婚する前に、千春もきちんと働く経験をしておいたほうがいいわよ』
『そうそう、これから一生、ずーっと嫌でも顔を合わせて暮らさなきゃいけないんだから』
『恋愛の時間を、もう少しだけ楽しんでからでもいいんじゃない?』
そんなお互いの両親たちの言葉に説得されて、ふたりが仕事に慣れ、結婚資金が貯まるまでは別々に暮らすことになったのだ。