その時は私がいるではないか-9
「これって…… やっぱり近親相姦になるんでしょうかね?」
「いや、血は繋がってないのだから問題無いよ」
到底、初体験後の男女がする会話とは思えぬこの会話。
僕たちらしいと言えばそれまでだが、
世間的にはやっぱり親子なのだ、気にならないほうがおかしい。
「そもそもインセスト・タブー───近親相姦は社会的に禁忌として戒められているが、
実のところその理由はまちまちなんだぞ?」
「そうなんですか?」
「一般的に知られているのは血の濃さから奇形が産まれやすいためと言われているが、 ならば子供を宿さない場合はどうなるのだと───
その場合はただの不貞行為に過ぎないのではないか?という考えも少なく無いんだ」
「ただの不貞行為って…… どちらにせよ社会的には駄目な事ですよね?」
「まあ、それはあくまでも近親相姦の話だ…………
後見人は別に法律上も紙面上も親子ではない。
あくまで未成年者の法定代理人であって、
便宜上『親子』みたいな信頼関係というだけにすぎないよ」
「…………なんだか今日はじめて秋子さんが大人に見えました」
「し、失礼だな君は………… これでも必死で勉強したんだぞ?
…………そ、それだけ私は君が欲しかったという事なんだが……」
僕にはまだ難しい事はよくわからないけど、秋子さんがそう言うなら間違いないだろう。
なにより『それだけ私は君が欲しかった』だなんて言われてしまうと、
法律とか世間体なんて、そんなものもうどうでもよくなってしまう。
「でも、今日僕が秋子さんを襲ったのは、ただ性欲が抑えきれずにで…………」
「言わなくてもいいよ…… それでも君はその相手に私を選んでくれたではないか……
それだけで私はこんなにも満足なのだ、君に私の感情を強いるつもりは毛頭無いよ」
小学生の僕を好きになった高校生の秋子さん。
その差は最小でも四年、そこから僕を引き取るまでの期間を加算すると、
少なくとも八年は想い続けていてくれた事になるだろうか…………
それに比べて僕はまだ、秋子さんを好きと自覚してから数時間。
埋まることの無いこの隙間は、どうすれば埋めていけるのだろう。