その時は私がいるではないか-13
なるほど…… 確かに理にかなって…… いや、かなってるのか?
そもそもこの話には感情論が度外視されているわけで、
いかにカウンセリングの一環だと言えど、
僕またはクランケに恋愛感情が生まれてしまうかもなんて可能性、
秋子さんは微塵も考えていないのではないだろうか?
「えっと秋子さん? もし…… その、もし僕がクランケに恋愛感情を…………」
「無い! 君はそんな事は絶対にしない!」
「えぇーっ? じ、じゃぁ…… 逆にクランケが僕に恋愛感情を抱いたら…………」
「寮内は恋愛禁止! 発覚したらその時点で退寮だ!」
「れ、恋愛禁止って…… どこぞのアイドルグループですか…………」
ふむ、なんとなくだけど秋子さんがわかって来たような気がする。
博識で論理的な常識人ではあるけれど、
自分の事、いや、こと僕の事においては誰よりもわがままな人なんだ。
「ようするに秋子さん………… 僕の事が好きで好きでたまらないんですね?」
「そうだ! って何を言わせる! 私はいちカウンセラーの立場としてだな…………」
出会ってから約半年───ぶっきらぼうで無表情な女性だと思っていたけれど、
今日ほど表情豊かな秋子さんを見たのははじめてかもしれない。
いつも凜として、美人で格好いい非の打ち所無い僕の母は、
どうやら素肌をさらす事でとても可愛いひとりの女に早変わりするみたいだ。
「はいはい…… よくわかったよ母さん……」
「か、母さんとな!? 何故いきなり母親なのだっ??? いつものように秋子さん、
いやっ こうして二人でいる時くらいは秋子と呼ぶのが適切では無いか?」
「それはいくらなんでもまだ…… そもそも形なんていらないんじゃ…………」
「う、うるさいっ TPOと言う言葉があってだな、時と場合に応じて…………」
「あ、もしかしてクランケと性交渉するなってのは…… 案外秋子さん流の嫉妬?」
「う、うるさいうるさーいっ!!! あ、明日も早いんだからもう寝るぞっ!」
そう言って秋子さんは僕に背中をむけると、
くの字に体を丸めては朝まで頑なに口を閉ざしてしまった。
(はぁ…… なんだかんだで結局僕は秋子さんに逆らえないんだよなぁ……)
僕は溜息をつきながら、隣で眠る雪菜の寝顔をじっと見つめた。
すやすやと、気持ち良さそうな寝息を立てる色白の美少女。
見た感じでは普通の女子校生となんら変わり無いのに、
この子もまた誰にも言えない悩みを抱えては必死でそれに抗おうと頑張っているのだ。
(こんな僕でも、ちゃんと君の役に立ってるかな?)
そんな事を思いながら僕が隣で眠る雪菜の髪を撫でていると、
ふと、誰ともなしに部屋のドアをノックする音が聞こえた。