その時は私がいるではないか-10
「なぁ和也………… 来年からこの寮に人を住まわせてみようかと思うんだ」
「突然ですね? でも、確かにこれだけの部屋数がありながら、
いままで誰もいなかった方が不思議なくらいですけど…………」
「はは、もともと病理棟として建てたものなんだがな……
昨日までの私には、まだその一歩を踏み出す勇気がなかったんだよ…………」
そう言って秋子さんは照れくさそうに笑うも、表情一転、
いつにも増して真剣な目で僕を見つめながら話を続けた。
「性の悩みというものは根が深くてな、数回のカウンセリングで解決するものもあるが、
大抵は年単位でのリハビリを必要とする重度の患者ばかりなのだ。
他人に打ち明けにくいのはもちろん、下手をすれば一生抱え込む事も少なく無い。
私は…… 私のように………… ひとりで悩み苦しむ女性の力になりたいのだ」
私のようにという言葉がなんだかくすぐったい。
こんな僕でも少しは秋子さんの力になれたのだろうか?
いや、もちろん別に秋子さんの悩みを解消したくて肌を重ねたわけではないのだけど、
僕なんかが新たな秋子さんの門出のきっかけになれたと思うと、
誇らしいようなやっぱりどこかくすぐったいような…………
「ただ、そのためには君の力がどうしても必要でな……」
「僕の力がですか?」
「うむ…… 知識的な部分なら私だけでも充分に事足りるのだが、
いかんせん女では解決出来ぬ悩みもあるしな…………
特にそういった患者をなんとかしてやりたいと思って
この寮を建てたようなものなのだから…………」
僕に出来て秋子さんには出来ない事? そんな事などあるのだろうか。
僕は少し小首を傾げるも、秋子さんが求めるならと、
特に何の疑問を持つこともなく返事を返した。
「わかりました! 僕に出来る事なら助手として出来る限りを尽くします」
「そうか! やってくれるか! そう言ってくれると助かるよ!!!」
なんだか子供のようにはしゃぐ秋子さん。
嬉しそうに両手を振りかざすのはいいのだけれど、
目の前で大きな乳房が揺れるのがとても気になってしまう。
「で、でもいったい何をすればいいんですか?」
「うむ、さしずめ君にはここの管理人として常に寮員と接してもらいたいのだ」
「管理人…………? そんな事でいいんですか?」
「ああ………… とは言え普通の管理人ではないぞ?
別に家屋の修繕や掃除などをしてくれと言っているわけではない。
私の信頼するいちカウンセラーとして、
悩めるクランケの要望に出来る限り応じてあげて欲しいのだ」
つまりは管理人としてこの寮に常駐する事で、
クランケの悩みに即時対応するのが僕の役割と言うわけだ。