告白1-6
私はなんとなく何も言えないまま、お互いが吐いている白い息をぼんやり眺めていた。
土橋くんは手に持っていた箱をブルゾンのポケットにしまい込み、前屈みになって肘と膝をくっつけたような姿勢で缶コーヒーをまた一口飲んでから、
「そもそも、俺が何で郁美と付き合ったと思う?」
と、ゆっくり私の顔を見上げた。
「友達に……郁美を振るなって言われたからでしょう?」
「まあ、それもあるんだけど……」
彼は言いづらそうに、缶コーヒーをまた一口飲んだ。
他に理由があったの?
そんな彼を見つめながら、答えをなんとか考え出す。
単純な好奇心?
郁美みたいな可愛い娘に告白されて嬉しかったから?
沙織のこと、あきらめるため?
頭の中では答えたつもりでも、言葉が上手く出せなかった。
黙っていた私に彼は一言、
「……復讐だよ」
と静かに言った。
思わぬ答えを口に出した土橋くんに、私は目を見開いた。
おどろおどろしい言葉の響きにゾクッと悪寒が走る。
「復讐って言葉は大げさだったかもしれないけど……でも、俺はずっと郁美が許せなくて、傷つけてやりたかった」
土橋くんは私から視線を逸らすと、そのまま睨みつけるように地面をじっと見つめていた。
それから再び私の方を向くと、
「お前、比内昌斗って覚えてるか?」
と訊ねてきた。
―――ヒナイマサト。
聞いたことのある名前を突拍子もなく口に出されて、一瞬混乱したが、頭の中でその名前を反芻していくうちに、一人の男の子の顔を思い出した。
野球部のユニフォーム、照れたように笑う爽やかな顔、キャアキャア騒ぐ女の子達。
……そして、卒業式の帰り道、彼の横を笑顔で手を振りながら歩いていた郁美の姿。
「郁美が前ちょっとだけ付き合ってた……?」
私の言葉に彼は黙って頷いた。