告白1-10
郁美が“修は自分から別れるとは言わない”って言っていた意味がようやくわかった。
土橋くんに傷つけられても、復縁を望んだ郁美。
そこまで好きだった土橋くんを手放して、身を引いた郁美。
多分、それは目の前にいるこの最低男のために別れを選んだんだ。
罪悪感でできた鎖で縛り付けてられていた土橋くんを、解放してあげるために。
「……軽蔑したろ?」
彼はやや不安気な表情で私を見た。
私は涙が一筋、スウッと流れていくのを感じた。
涙が流れた跡が風にさらされ、やけにひんやりする。
「……最低」
やっと絞り出した言葉がそれだった。
彼は、目を泳がせるように私から視線を逸らす。
「郁美がどれだけあんたを好きだったのか、どんな想いで別れたのか、どんな気持ちで私をここまで来させたのかを考えると……ホント、あんたって最低」
ヨリを戻してからの郁美は、土橋くんのことを悪く言うことは一切なかった。
そんなひどいことをされていたと知っても、自分に気持ちがなくても、ひたすら彼を想い続けていた郁美のことを思うと、土橋くんのことはどうしても許せなかった。
それなのに、二人が別れて、微かな希望を抱いている自分がいるのもまた事実で、そんな自分にも苛立ってくる。
正義感と欲望が混ざり合って自分が何をしたいのか見失いそうになる。
彼は髪の毛をかきむしるようにグシャリと握っていて、私はその髪の毛に埋もれている大きな手に視線を移した。
その大きな手にずっと触れたくて、何度も郁美を羨み、嫉妬していたことを思い出す。
最低男だけど、もし私が差し出した手を握ってくれるなら、やっぱりその手は離したくない。
彼のしたことは許せないけど、私はやっぱりこの人が好きなんだ。
私はコートの裾で涙をグリグリ拭いながら、
「……それでも、こんな最低男をまだ諦め切れずに、告白しようとしてる自分はもっと最低」
と、苦々しく呟いた。