釣り師の罠-1
『いやぁ、今日は絶好の釣り日和ですね。釣れますか?』
「え?あ、ええ。釣れてますよ」
『それは良かった。川のせせらぎもまた乙ですな…。ああ、申し遅れました。私刑事のドロンボ言いましてね』
「え?刑事!?」
『ええ、鎌足幸雄さんですよね?』
「は、はい…何か?」
『ああ!ほらほら!引いてますよ!』
「あ、おっと!」ヒョイ
『流石ですなぁ…私魚に詳しくなくて、これは何て魚ですか?』
「…虹鱒ですね」
『鱒ですか』
「鱒です」
『…川がお好きで?』
「はぁ、都会の喧騒とした雰囲気に馴染めなくて」
『そうですか』
「あの…一体」
『妹さん』
「!!」
『亡くなりました』
「…そう、ですか」
『点滴のチューブが何者かに抜かれてたようです』
「殺人…ですか。しかし私は今朝からずっとここに居ます」
『そうだったんですか?まぁ、犯人は身内でしょう。脳死の延命措置費用も馬鹿になりませんからね』
「どういう意味…ですか」
『その魚は虹鱒じゃありません』
「!」
『鮎、ですね?』
「…」
『妹さんは鎌足鮎美さん。あなたは意識的に妹さんのお名前を避けた』
「何のことでしょう」
『別に隠す必要は無いでしょう。その魚が鮎なのは間違いない。それとも魚が鮎だと何か都合が悪いのですか?』
「間違えただけですよ」
『社内でも釣り馬鹿と有名な貴方が?』
「弘法も筆の誤りと言いますから」
『なるほど』
「もういいですか?」
『そうですね…そろそろお暇します』クル
「…」
『ああそうだ鎌足さん』
「何ですか?」
『なんで貴方は鮎美さんが"今朝亡くなった"のをご存知だったんですかね?"今朝からずっとここに居た"のに』
「!」
『ここは山奥で…ほら、携帯も圏外ですよ』
「っ…!」
『貴方は』
「違うんだ!」
『違う?』
「金なんかはどうでもいい!俺は…俺はこれ以上表情の無くなった鮎美の顔を見ていられなかった!」
『だから殺したと?』
「そうです」
『え?マジ?』
「は?」
『真面目に?』
「え?」
『いや、何かそれとなく言っただけなんだけど、本当に殺したの?』
「え?あの…え?」
『11時32分、被疑者確保』カチャリ
「え!?なにこれ!?釈然としない!」
『まんまと釣られましたね』
「釣り針見えねぇえええっ!」