27 断罪の要求-1
ストシェーダ王都を覆い守り、常春の気候を保つ魔法保護膜には、もう一つ重大な役割がある。
魔法具を使い、王都の空全体に映像を投影できるのだ。
主に大きな式典や国令の発布時などに使われるが、せいぜい年に一、二度くらい。
――ジェラッド王都で、飛竜たちが暴れ狂っていた同時刻。
ストシェーダ王都民の視線は、身分の上下を問わず空へ釘付けとなっていた。
おだやかな昼下がりの空へ、何の前触れもなく、指名手配中の元大臣マウリの顔が映ったのだ。
『これからジェラッド国の最後を映す。これを見て我が要求を飲むか決めてもらおう。私が望むのは、大罪人アレシュの王位継承権剥奪と、それを庇護したメルキオレ王の退位だ』
マウリは言い放ち、映像はすぐ切り替わった。
そして、ジェラッド王都の惨劇が映し出され始めた。
まったくワケがわからず、人々はポカンとした顔で、遠い国の災厄を眺めていた。
牙を剥く巨大な飛竜に子どもは脅えたが、大人たちはこれが遠い地の出来事と知っている。
さしあたって自分達に害があるとも思えない。
王家に縁も縁もない庶民にとって、最高の見世物に思えた。
王宮はもちろん大騒ぎで、メルキオレとリディアも青ざめたが、いくら見るのを禁じようとしても、空いっぱいに映し出されるのだ。
城下から大きくどよめき声があがったのは、緋色の髪をした王位継承者……アレシュ王子の姿が映った瞬間だった。
黒と金の魔眼を持つ王子を、マウリは重ねて『大罪人』と糾弾した。
メルキオレとリディア以外、城の人間は兵士も文官も使用人も、いっせいに気まずい沈黙の視線を酌み交わした。
国王夫妻に遠慮のない城下では、もっとあからさまな視線や意見が交わされているだろう。
『大罪人』
その意味を、ストシェーダ国民なら誰しも知っている。