竹中君とのデート@-1
2012年5月中旬、春麗らかな夕暮れ時、土屋紗綾はいつものように県立桜ヶ丘高校の校門を出て、熱田駅に向かった。高校に入学してひと月あまり、学校の雰囲気やクラスメートに慣れはじめたと実感する今日この頃だった。
熱田駅から自宅がある最寄り駅の鳴海までは30分足らずの距離である。
憂鬱な生理が終わって、しばらくは気分爽快に過ごせそうだ。
軽快に鳴海駅の階段を下って、改札口から出たところで声を掛けられた。
「紗綾さん」
「あっ竹中君どうしたの?」
「紗綾さんを待っていたんだよ」
「わたしを?」
「歩きながら話そう」
「はい」
竹中啓二は学校の帰りに紗綾を待ち伏せていたのだろうか。鳴海商業高校の二年生で、横顔が福山雅治に少し似ている。
「紗綾さん、ハンバーガーショップのバイト辞めたんだね」
「うん…。店長と合わなくて…」
「合わないって?」
「まあ、いろいろあったの」
「そうか…」
「竹中君、駅に用があったの?」
「用というか、なんというか、紗綾さんのことが心配で…」
「心配って?」
「モンドバーガーで見かけなくなったから、どうしたのかと、気掛かりで…」
「ありがとう。心配してくれていたんだ」
肩を並べて歩きながら話していたら、いつのまにか大高緑地公園の入り口に来ていた。
「公園を散歩して、目の保養をしていこう。まあ、紗綾さんを見ているだけで目の保養になるけどね」
「えっ、お上手なのね」
竹中の言葉はお世辞かもしれないが、嬉しかった。