報告-3
「あたしね、修と別れたから」
左足の親指を手で包んで隠していた私は、少し出遅れたように顔を上げて郁美を見つめた。
一瞬自分の耳を疑ってしまうほど、郁美はあっけらかんと言い放ったのだ。
今まで歴代の彼氏達を振っては、悪びれもせずに「別れちゃった〜」とヘラヘラと報告してきた今までの郁美と同じ。
「な、なんで……」
「最近ずっと考えてたんだ。修は優しいし、一緒にいて楽しいし、すごい幸せだったんだけどね」
郁美の顔は微笑んでいるけど、口調は淡々としゃべり続けていて、どこかアンバランスだった。
「でも、最近の修はぼんやりしてばかりで、上の空って感じなんだよね。何かこう……考え事で頭がいっぱいって感じでさ」
「……そうなんだ」
「どうしたのって聞いても、何でもないって笑うだけで、いつもみたいに面白い話してくれるんだけど……何か遠く感じるんだよね」
郁美は自分の髪の毛をクルクル指に巻き付けながら、私の顔を見ないで話し続けている。
そんな様子を見ながら、私は自分でもわからない体のどこかがざわめいているような気になって、思わず身震いした。
「あたしね、わがままを押し通して修とヨリを戻して、今度こそ失敗しないように付き合ってきたつもりだった。修に好きになってもらえるように、たくさん努力してきたの。
でも、いつも修の気持ちはどこか遠くにあるような気がして、ずっと不安で仕方なかった。だから、なるべくたくさんデートしたり、クリスマスとかイベントは一緒に過ごしたり、……身体でつなぎ止めたりしてたんだけど」
淡々と話していた郁美は、突然ポロッと大粒の涙をこぼして、髪をいじっていた手で鼻と口を覆い始めた。