1ヶ月遅れのお返し-2
屋上階に着くまで途中で乗ってくる人もいないのに、無言の二人。
到着して、とりあえず外に出る。
自販機で二人分の缶コーヒーを買って喫煙所に向かった。
「はい」
差し出した缶コーヒーを受け取ってくれる。
たったそれだけのことに驚くほどホッとしている自分がいた。
「…なんで何にも言わずに帰っちゃったんですか?」
喫煙所にも他の人はおらず、村上が切り出す。
「村上気持ち良さそうに寝てたし」
タバコを取り出して火をつける。
深く吸い込んでゆっくりと吐き出してから質問に答えた。
「ショックでした」
「ごめん、泊めてもらったお礼も言わないで」
「そうじゃなくて…あ、これ。ずっと渡したくて」
村上が持っていたカバンから小さな箱を取り出して私に差し出す。
「なに?」
「たぶん賞味期限切れてないと思うんですけど、お返しです」
「お返し?私何にもあげてないよ?チョコ買うのだって忘れたし」
「チョコよりいいモノ貰いましたから。受け取ってください」
笑顔で差し出したその箱をありがたく受け取る。
「ありがと」
「その代わり、連絡先教えてください」
「へ?」
「ずっと話したかったから」
スーツのポケットからスマホを取り出す様を、ぼんやり眺める。
「秋月さん?」
「何?」
「…迷惑ですか?」
戸惑った表情もいいなと思う。
「ううん、そんなことない」
私もスマホを取り出すと、赤外線で連絡先のやり取りをした。
「もう5分経っちゃいましたね。あんまりサボってると怒られそうだし」
苦笑しながら村上は立ち上がる。
「オレ、先戻ります。あとでメールしてもいいですか?」
「いいよ」
自分でも驚くほど可愛いげがない返事しか出てこない。
それでも村上
満面の笑みを見せてくれた。
「じゃああとで」
そう言うとあっという間に私の唇を奪い、驚いている間に喫煙所から出ていってしまった。
「な、何今の…」
村上にはあの日から驚かされっぱなしだ。
数分も経たないうちに、手にしたままのスマホが震える。
震える手でなんとか操作して届いたばかりのメールを確認する。
『今日また泊まりに来てください、また可愛い寝顔、ナマでみたいです』
添付されていたのは、あの日の私の寝顔だった。
「あんのブァカッ」
いつの間に撮ったんだろう。
自分のフロアに戻るまでの間に、即刻削除するように返信した。