返却-4
◇ ◇ ◇
補習最後の授業も無事終わり、みんな解放感に溢れた顔で帰り支度を整え始めている。
カバンを小脇に抱えた土橋くんは、廊下に出て七、八人程の集団の中で相変わらずワイワイ騒いでいた。
多分彼らはこのまま下校するのだろう。
ロッカーを開けて、紙袋に気付いたらどんな顔をするのかな。
チラチラ彼の様子を遠目で伺いながら、机の中の教科書やらノートやらをカバンにしまっていると、
「桃子、帰ろ」
と、沙織が私のそばにやって来た。
大山くんは土橋くん達の輪の中にいたから、今日は別行動らしい。
だけど、私は両手を合わせて小さく頭を下げ、
「ごめん、ちょっとこれから佐藤先生にさっきの問題のわかんない所聞きに行こうと思っててさ」
と、言った。
数学だけは参考書を見ても自力で解けないことばかりだったので、今日のうちにすっきりさせておくつもりだった。
いつまで続くかわからないけど、意欲のあるうちに勉強に勢いをつけておかねば、という気持ちがあったのだ。
……と言うのはあくまで建前で、本音はこのまま帰って土橋くんの反応を見てしまうことが怖かったから、彼とは下校時間をずらしておきたかったのは、私だけの秘密。
「へぇ……、桃子は真面目ね。んじゃ、倫平誘ってみるね。じゃあまたね」
沙織は特に気にも留めずに私に手を振ると、大山くんの元へ歩いて行った。
沙織が近づくと、大山くんが嬉しそうな顔で彼女を迎えているのが見えた。
土橋くんらも和やかな顔つきで、沙織と楽しそうに話している。
沙織とは普通に話すんだよね……。
そんな様子に、軽い嫉妬心が私の胸をチクリと刺すけれど、あえて見ない振りをして、先ほどの問題集とルーズリーフを持ち職員室へと向かった。