ロイター板と跳び箱-3
さっきまで、あんなに楽しそうに話していた二人。
けど、彼氏は全く別人のような顔に、加奈は今にも泣きだしそうな表情になっていた。
加奈は俯いたまま走りだし、状況が掴めずただ立ち尽くしていた俺の横を、勢い良く通り抜けて行った。
ワケも分からない俺は、考えるのは後回しにして、加奈の後を追い掛けた。
「ちょ…待て…って…。………おい……加奈…って」
上りながらも語り掛けるが、俺の声は加奈には届かず、まだ階段を駆け上って行く。
とうとう最上階まで上りきった加奈は、バンっと屋上の扉を開け、外に消えた。後を追っていた俺も、階段を上りきり、閉じかけていた扉を開いて外に出た。
「……はぁはぁ。……やっと追い付いた……。どうし……」
途中で気付く。
そこに居たのは、いつもの元気な加奈ではなく、力無く立っている少女だった。
「……加奈……」
少女の瞳から涙が零れるのを合図に、暗雲の空からもポツポツと雫が零れ始めた。
空も泣いている………。
そう思った瞬間、俺に体重が係った。
少女が嗚咽を繰り返しながら抱き付いていた。
俺は、無言のまま雨にうたれた。
暫らくはこのまま……。
泣き止むまではこのまま……。
いつしか嗚咽は止まり、落ち着いた様なので、俺は加奈を屋内へと連れた。
「あのまま雨に濡れていたら、カゼひいちゃうだろ?まぁバカはカゼひかないっつーから、加奈は大丈夫だろうけどね」
ニコニコしながら憎まれ口を叩く。
けど…加奈は無反応だった……。
いつもなら、怒って殴るなり蹴るなりの反撃が来るのにも関わらず……。
「ほれ、ホントにカゼひいちゃうぞ」
居たたまれなくった俺は、ポケットからクシャクシャのハンカチを取出し、目の前に差し出した。
それでもやっぱり無反応……。