最終話 新妻の目覚め-19
「ううん。じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
裕一が隣で寝息を立て始めた。
それを聞いている紗希は、なかなか寝付けなかった。
つい数時間前に裕一とのセックスを終えた後、悶々とした気分を抱えていたように、今も、何かモヤモヤとした気持ちだった。
あれは、夢だったのだ。
隣人は蛇沼という男ではなかった。
夫婦と子供二人の四人家族が住んでおり、幸福そうな家庭は紗希たち夫婦の憧れだった。
近所に酒屋はあるが、そこの主人は馬淵などではない。
気のいい奥さんと二人で仲良く商売をしている店だ。
向かいの家は、引退した老夫婦が住んでいる。
今度、息子夫婦が孫を連れてくると、楽しそうに話していた。
本当に、夢で良かった。
紗希は、布団の中で寝返りを打った。
夢の中で、紗希が必死に守ろうとした生活には、何一つ傷ついていなかった。
紗希は、裕一を裏切ってなどいなかったのだ。
隣から聞こえてくる夫の寝息を聞きながら、紗希は心の底から安堵した。
だが、紗希のモヤモヤは消えなかった。
新妻は、夫に嘘をついたのだ。
夢の内容を忘れてはなく、今でも鮮明に思い出すことができるのだ。
新妻は、夫に隠したのだ。
さっき着替えたパンティが、汗ではない別の体液でグッショリと汚れていたことを。
新妻は、夫に内緒に思った。
結婚祝いにとミユキが贈ってくれたアレ、明日、使ってみようかな……。
【完】