最終話 新妻の目覚め-16
「この期に及んで嘘までつきやがって。もう、いいっ!お前の顔なんか見たくもない。いいか、今日中にこの家を出て行くんだ。出て行けっ!」
指を紗希に突き刺しながら怒声を浴びせると、踵を返す。
裕一が大きな足音を立て、階段を降りていく。
追い駆けなくては……。
裕一を追い駆けて、止めなくては……。
そうしないと、全てが終わってしまう。
すっと我慢して守ってきたこの生活が。
話せばきっと分かってくれる。
ずっと愛し合ってきた二人なのだから。
きっと分かってくれるはず。
紗希は、床に落ちた服を掴み、胸に抱えると、裸のまま部屋を飛び出した。
「裕一さん!待って!!」
必死に叫ぶ紗希。
裕一の足音は止まらない。
「裕一さん!お願い、話を聞いて!」
階下から、玄関の扉を開ける音がした。
何が何でも、裕一を止めなくては。
このまま出て行かれたら、二度をやり直せなくなる。
駆け出す紗希。
階段を駆け下りようとしたその時……
あっ……!
滑って、もつれる足。
手すりを掴もうとした手が空を切る。
「きゃぁっ……」
悲鳴を上げた瞬間、完全にバランスを失った紗希は天地が逆さになるのを感じた。