解放-1
ビアズリー国は南の大陸の中心に位置し、年中温暖な気候で果物の生産が盛んな国。
生産した作物は各国に輸出され、中々に裕福。
国境争いで騒がしい大陸ながらも比較的落ち着いた国だ。
そのビアズリー国の中心にある城下町。
そこで一番賑やかな繁華街の中に暗殺集団『シグナー』の本部はあった。
バシャッ
「…………」
冷たい水を浴びせられたカリーはうっすらと目を開ける。
両手はひとつに括られて天井からぶら下がっている状態。
足は床に着くかどうかという感じで、いい加減腕の感覚が無い。
「気がついたか?」
低く響く声に霞んだ目を向けると、濡れた黒い髪越しにバケツを持った頭領が立っていた。
頭領に見つかってから3日過ぎた……『脱色』の効果がきれて髪の色も、肌の色も本来の色……黒髪に浅黒い肌に戻った。
「んふ♪おはよぉ〜パパ♪」
ビシッ
「……ッ」
呑気に挨拶をしたカリーに細い鞭が振り下ろされ、カリーは痛みに顔をしかめる。
女王様のような長いタイプでは無く、馬とかに使う短くて良くしなる鞭はカリーの身体に痣を浮かびあがらせた。
「何故、裏切った?」
アジトに連れて帰られてから何度もされた質問。
小さい頃から仕込まれてきたカリーは、頭領に嘘がつけない。
嘘を言ったとしても直ぐにバレるのだ。
だが、正直に『男に惚れたから』なんて言ったら調べあげられて速攻でゼインに刺客が行く。
だから、カリーに出来る事はひとつ。
「ナ・イ・ショ♪」
死ぬまで黙っている事だけだ。
バシィッ
「ぁぐぅっ!!」
再び振り下ろされた鞭は、カリーのみぞおちにヒットして彼女は激しく咳き込む。
「……俺はお前が可愛い……」
頭領は鞭の両端を持って、今にも折りそうな勢いでググっと鞭を曲げていく。
「げほっ……嘘ばっかりぃ〜」
可愛いなら拷問を止めろと言いたい。
「その証拠に賞金は懸けてない」
普通、脱走した暗殺者には賞金が懸けられて他の暗殺者達やハンター達が首を狙う。