解放-3
ここで、時間を3日前まで遡る。
カリーを助けに行くと決めたゼイン達は、南の大陸に向かって海の上を疾走していた。
「ほれ見ろ。俺が居て良かったろ?」
小舟の上でケイが得意気な顔をゼインとスランに向けると、2人はげっそりとした青い顔でヒラヒラと手を振った。
猛スピードで進む小舟は帆もオールも無い。
なのに何故動いているかというと……。
『クックゥッ(ひゃっほーい)』
海の精霊クインが引っ張っていたのだ。
クインは全長3メートル程の大きさとなり、胴体にベルトを巻いて小舟と繋がっている。
海流や風に左右されずに、かなりのスピードで進めるのでファンから南の大陸まで通常1日かかるのがたったの半日で済む。
だが、欠点がひとつ……乗り心地は最悪だった。
(吐く……)
(マジでリバース……)
ゼインとスランは完全に船酔い状態。
ケイは勿論大丈夫だが、何故かポロも平気だった。
それどころか、船頭にかじりついて生き生きしている。
ゼインはその後ろ姿を眺めて出発前の押し問答を思い出した。
「私も行く!」
「だめだ」
「俺もっ」
「却下」
ポロとケイの申し出をすげなく断ったゼインに、2人はムッとした顔を見せる。
「いや……お嬢ちゃんは連れていった方がいいかもな」
そこに割り込んだのはスラン。
彼は顎を指で掻きながらポロをじろじろ見る。
「暗殺集団のアジトなんて危険過ぎる。ダメ、絶対」
ゼインは手の平を出して首を横に振った。
「いや、だからだよ。お嬢ちゃん、他人にも治癒能力使えるんだろ?多分、カリオペ拷問されてて瀕死だし?」
「嫌な事あっさり言うな、この大木」
「自分にしか治癒能力使えねぇクセに偉そうに言うな、この豆」
ゼインとスランはポロを挟んでバチバチと睨み合う。
カリーの正体をバラしたスランは、自分とカリーのやり取りも全て話した。
それを聞いたゼインは憤慨したが、自分がフラフラした曖昧な態度を取っていたのも原因のひとつなので、スランだけを責められない。
でも、弱味につけこんでカリーを抱いたのはやっぱりムカつくので、ちょっとした事で突っかかるのだ。
そして、スランはスランで苛ついていた。
何もかもらしく無い……カリーが連れて行かれたからといってスランが慌てる事は無かったのだ。
自分と違う道を選んだ暗殺者の結末として処理すれば良かったのに、自然と身体が動いていた。
らしくない、全くもってらしくないのに……悪くない気分だから苛つくのだ。
そんな2人を両手でぐいっと押して間に割り込んだポロは、ゼインを下から見上げてハッキリ伝える。