解放-2
「そうなのぉ?だって『ログの黒い鷹』は私が脱走したって知ってたよ?」
「『黒い鷹』に会ったのか?」
カリーの言葉に頭領は目を丸くして驚いた。
「うん。まあ、偶然?」
「そうか……『ログ』はデカい組織だからな……情報も入りやすいんだろう」
頭領は鞭をぶんぶん振りつつカリーに近づく。
散々打たれて服はズタボロ……その隙間から鞭が潜り込んでツツツと脇腹をなぞった。
「はっ…う……」
カリーは顔をしかめつつも、頭領から目を離さない。
「……裏切った理由を話せば、命は助けてやるんだがな……」
「はぁ……寛大ね……それじゃ他の兄弟に示しが付かないじゃぁん……?」
「それぐらいお前が大事なんだ……兄弟達も納得している」
ふと視線を上げるとシグナーのメンバー達が心配そうに拷問部屋を覗き込んでいた。
カリーは彼等に儚く笑って謝る。
「……ごめんねぇ〜?」
それでもカリーは口を割らない。
笑うカリーに、兄弟達は諦めたように部屋の前から去って行った。
「今日中に素直にならないなら……」
途中で言葉を切った頭領は、首を振ってため息をつき拷問部屋を出ていく。
それを見送ったカリーはガクリと首を落としてひと言。
「あ〜…お腹すいたぁ〜…」
どうせ死ぬならひと思いにさっさと殺ってもらいたい……お腹はすくし、あちこち痛いし、たまったもんじゃない。
(……それでもゼインなら生きるって思うのかなぁ……)
ゼインの事を思い出したカリーの赤い眼から、自然と涙が溢れた。
(……貼り付いてでも側に居るって決めたばかりだったのに……自分から離れる羽目になるとはねぇ〜…)
カリーはため息をついて昔の事を思い出す。
『カリー』としてゼインと会って、これっきりだと思って別れて……その後、再会するまで4年間……屍のように生きていた。
何をしても何も感じない……何を食べても味がしない……終いには見るもの全てがモノトーンに見えた。
その灰色の世界はゼインに再会して極彩色に変わった。
また屍の様に生きるのは嫌だ……もうあの景色が見れないなら……もう愛しい腕に抱かれないなら……生きててもしょうがない。
(ごめんね、ポロ)
ひとつだけ気になるのはポロの事。
ゼインと同じように辛い生き方をしていただろうあの娘が、どうか幸せになりますように。
カリーは目を閉じて感情を殺していった。