解放-13
「アンタが頭領?」
「『ログの黒い鷹』スランバートがシグナーに何の用だ?」
頭領は肯定せずにスランに問いかける。
「ここで話すのか?」
「構わん」
今、店に一般人は居ないと答えた頭領に、スランは息を吐いた。
店内には頭領、バーテンダー、さっきの男の他にあと5人居る。
(ははっ……生きて帰れっかな、俺)
さすがに8対1じゃ勝てないなあ、とスランは後頭部をポリポリ掻いて口を開いた。
「俺をシグナーに入れてほしい」
スランの言葉にたっぷり3秒固まったシグナーのメンバーは、ぶはあっと同時に息を吐き出す。
「クビになったのか?ログをクビになるような男をシグナーが雇うとでも?」
唯一動揺を見せなかった頭領は、両手を組んでカウンター越しにスランを睨んだ。
「クビっつうか、雇い主に殺されかけたんでね。多分、ログでは俺は死んだ事になってんじゃねえかな?」
スランは頭領の視線を受けてあっけらかんと話す。
「手土産代わりに『赤眼のカリオペ』の情報なんてどうだい?」
スランの言葉に頭領はぶっと吹き出し、他のメンバーもクククと笑った。
「聞いたぞ。会ったらしいな」
「ありゃ、捕まっちまったの?良い女だったのに勿体無ぇ」
スランはじゃあ取引き出来ないな、と困った顔になる。
「脱走したとは聞いてたけど賞金懸けてなかったから捕まえても無駄だと思ってたけど……やっぱ、探してたんだ?」
「まあな……うちの秘蔵っ子はどうしても俺の手で殺りたいからな」
だから賞金を懸けたりせずに、シグナーだけで秘密裏に探していたのだ。
偶然……本当に偶然の事だった……ファンに送りこんだメンバーが「似た女を見つけた」と報告してきた。
そのメンバーはカリーが脱走した後に入った男だったので、特徴を教えていただけだったのだが、それが良かった。
その男は、自分が脱走するならと考え『脱色』の事も頭に入れて目を光らせていたのだ。
カリーは昔から薬の類いが嫌いで、風邪をひいても飲まないタイプだった。
だから『脱色』を飲んでるなんて事は、頭領や古いメンバーの頭には無かったのだ。
4年も見つからなくて当然だ、と頭領は苦笑する。
「ふうん……」
(山に登ってなきゃ捕まらなかったかもな)
メンバーの目に止まり、連絡が行ったとして急いで来るのに3日はかかる。
山登りの4日の間で、罠を張るには充分の時間だ。
「じゃ、しゃあねえか……他を当たるわ。邪魔したな」
スランはヒラヒラと手を振って店を出ようとしたが、出入口にメンバーが立ち塞がった。