ある春の夜-1
帰り道を歩きながら月光が冬に比べて柔らかくなった事に気付く。春になったとわかる一瞬。
春は出会いの季節であり、別れの季節でもあり、そして変化を実感する季節だと思う。
月の光も、それを見て沸く温かな気持ちも、去年と変わりはない。だけど、周りは常に変化している。
俺は、歩きながら今までの事を思い返した。
昔のように集まる回数が減った。
「いつまでもこうやって集まろう」
前の俺はそんなことを言っていた。みんなも頷いていた。それがどんなに難しいことかも知らないで。
だけど、そのときの俺はそのことが堪らなく嬉しかった。ただの口約束なのに、みんなはそれを絶対守ってくれるって信じていた。
だが、現実はそんなに甘くない。俺は次の年の春に初めて気付いた。集まる回数は確実に減った。訳もないのに焦燥感が俺を襲った。
俺にも新しい仲間が出来た。だけど、どこか腹を割って話すことが出来なかった。
確かに楽しい。だけど、楽しいだけだった。感情を出しあうことはなかった。
次の春、久しぶりにみんなに会った。
みんなそれぞれに変わっていた。それは当たり前のことなのだろう、だけど俺は何故か悔しかった。
その時までは、いつまでも変わらないことが誇りだと思っていた。だけど、みんなはそれぞれ変わってしまっていた。
今まで愚直に変わることを拒んだ自分が馬鹿らしく思えた。自分は変わることが出来ないと気付いてしまった。だから、みんなに嫉妬していた。もう昔みたいにはなれないのかと切なくなった。
久しぶりということもあり、みんなで騒ぎまくった。その時に身をもって感じた。みんな、中身は変わっていなかったということを。
下らないことで腹が痛くなるくらい笑う奴、歌う時に無意味にテンションが上がる奴、それを見て笑うみんなの笑顔、奥深いところはなんも変わっていなかったんだ。
知り合いの人が言っていた言葉を思い出した。
「友達は、いつまで経っても友達だ。たとえ何年言葉を交さなくても、心は繋がっているもんだから。だから、ずっと友情は変わらない」
もう、俺の下らない嫉妬心は消えていた。
みんなと別れ、帰り道が同じ奴らと歩いて帰る。話す内容は確かに変わった。だけど思い出話を喋るのは、俺たちを照らす月光は、周りの風景は、なんも変わっていなかった。
友達と別れ、一人道を歩く。変わるもの。変わらないもの。
次に会うときは、何が変わって何が変わっていないのだろう。少し楽しみに思えた。そして笑った。俺の考えもいつのまにか変わっていたことに。
変わることを怖れずに、変わらないことを愛しく思おう。
月明かりに照らされた桜を見て想う。そんな、春の夜。