思い出-5
歩仁内くんの存在は日増しに大きくなってきてることは自分でもよくわかっていた。
土橋くんのいない淋しさを埋めてくれるような気がしたし、彼は優しくて楽しくて、一緒にいると元気づけられたことはたくさんあった。
……でも。
「……どうしても、土橋くんのことを思い出しちゃうの。歩仁内くんと楽しく話していても、土橋くんならきっとこう言うとか、土橋くんならきっとこんな風に笑うとか、考えてしまうの」
私はグッと握った拳を膝の上にのせて気まずそうに唇を噛んだ。
「口を聞かなくなってもう三ヶ月になるのに、自分でもしつこくて嫌になる。いくら私が好きでいたってあの二人には邪魔でしかないのに……」
私がそう言うと、大山くんは何か言いたげに口を開きかけた。
でも、すぐに言葉をぐっと飲み込み、それからさっきとは打って変わって明るい顔を私に向けた。
「ごめんね、意地悪な質問しちゃって。そんなの実際告られたら考えたらいいんだし、なんか追い詰めちゃったな」
大山くんの不自然な笑顔を不思議に思いながらも、いつもの優しい彼に戻ったことに、私も胸をなで下ろした。
土橋くんのことも、歩仁内くんのことも考えれば考えるほど、自分の気持ちが混乱してくる。
そんな私にかける言葉が見当たらない二人も、どうしたらいいのかわからないようで、ただ作り笑いを見せるだけだった。
やがて、私達の微妙に緊迫した空気を和らげるかのように、店員さんがラーメンを次々に持ってきてくれた。
地元でもおいしいと評判のラーメン屋は、平日の昼と言うことで、サラリーマンで賑わっていた。
テーブルに置かれたラーメンから白い湯気がモクモクと立ち込めていて、それを見たら急にお腹が小さく鳴って、まるで早く食べろと急かしているようだ。
「美味しーい」
店構えの古さと小汚さに、最初はここで食べるのを嫌がっていた沙織も、一口ラーメンを食べたら前言撤回と言わんばかりに、どんどん箸を進めていった。
二人とも食べるのに夢中になり、徐々に無言になってきたのを眺めながら、私もゆっくり箸を口に運ぶ。
しかし、なぜかうまく飲み込めない。
実際お腹はすいていたし、香ばしい醤油の匂いが食欲を駆り立てるのに、どうも味気なく感じる。
意識がラーメンよりも土橋くんと歩仁内くんの方に向いてしまって、脳が味覚を判断する仕事を怠っているようだった。