自己嫌悪-7
「何が?」
振り向かずに答えたゼインに、ケイはムカッ腹を立てて彼の肩をグイッと引いた。
「何がじゃねえだろ?!止めろよっ!拐いに行けよ!!」
真正面から怒鳴るケイに、ゼインは自嘲気味に笑う。
「……魔草は明日城に持ってく……それと、後ひと晩ポロを頼むな」
ケイの手を払って話を反らしたゼインは、ポロの頭を軽く叩いた。
「悪ぃ……さっきの話は明日」
〈ゼイン!〉
ポロは叫んでゼインを止めるが、やはり聞こえる筈も無く、助けを求めるようにケイに視線を向ける。
ケイは苛ついて地面を蹴りつけ、ポロの手を握って魚屋の方へ歩き出した。
〈……ゼイン……〉
ポロはケイに手を引かれながら、反対方向へ向かうゼインの後ろ姿に哀しい視線を送っていた。
魚屋に戻ったケイは何やら憤慨しているし、ポロはずっと俯いて手の中のシュシュを見ているし……家族がケイに何を聞いても何も答えず、終いには自室に引きこもってしまった。
ポロに聞いてみても首を横に振るばかりで家族はすっかり困ってしまう。
ーゼインの事、お願いね。
ポロの耳にはカリーの言葉が残っている。
〈……行かなきゃ……〉
ずっと俯いていたポロは、左手首にシュシュをはめてスクッと立ち上がった。
家族達の目に写ったのは、何やら吹っ切れたポロの顔。
「良く分かんねぇけど気合い入った良い顔だぜ?」
父親がバチンとウインクして、グッと親指を立てる。
ポロはしっかりとうなづいて魚屋から飛び出した。
行き先はゼインの所……ゼインを1人にしちゃいけない……そんな気がしたのだ。
ゼインは始めの日に泊まった宿屋にいた。
部屋に入ると何かがコツンと足に当たり、ポロはそれを拾う。
それは度数の強いお酒の瓶で、それが何本も床に転がっていた。
ゼインはお酒は飲まない。
飲むと速攻で寝てしまうと言っていたのに……ポロは瓶を持ったまま部屋の中を歩く。
ゼインの姿は無く、いったい何処へ行ったのだろうと思いつつ、ポロは奴隷の癖で転がっている瓶を拾って片付けた。
「……カリー?」
気づいたらゼインがドアの所に居た。
眩しそうに目を細めたゼインは、振り向こうとしたポロを後ろから抱く。
〈ゼ、ゼイン?!〉
ポロの身体の前に回ったゼインの手には、更に度数の強い酒瓶。
その中身は殆ど空で、この短い時間でどれだけ飲んだのかを表していた。