自己嫌悪-5
「……親父さん?」
ゼインは立ち上がってカリーと頭領に身体を向けた。
「はい。娘がお世話になったみたいで!ありがとうございます」
「はあ……」
頭領はゼインの手を両手で握り、ぶんぶん振ると直ぐ様カリーに戻る。
「カリオペ、あの女とはきっぱり別れたよ。帰って来てくれるだろう?!」
(えっとえっと)
父親に女が出来て、それに腹をたてた娘が家出をした……というシナリオだろうか。
「嫌よ。ママが許しても私は許さないんだから」
カリーは話を合わせて反抗的にそっぽを向いて見せる。
「そのママが病気なんだよ」
「え?!ママが?!」
ママって誰よ、と自分で突っ込みつつ茶番劇を続けるカリーと頭領。
「お前を心配している。戻って来てくれ」
土下座までしてるクセにいつでも殺せるぞ、と手の中のダガーがカリーに向いている。
カリーはこれ見よがしにため息をついてダガーを隠し持っている方の手を取った。
「分かったわ。パパ」
カリーも目に涙を溜めつつ、頭領の手の中に指を入れてダガーを奪おうとする。
それを奪われないように頭領はもうひとつの手をカリーの手に重ね、うるうるした瞳を向ける。
スランがこの場に居たら突っ込み所満載の茶番劇だ。
感動の再会劇を演じながら、ギリギリとダガーの奪い合いをする2人。
しかし、カリーが根負けして先に手を離した。
「さあ、ママが待ってる。帰ろう」
頭領は立ち上がってカリーに手を差しのべる。
〈え?〉
頭領の言葉にポロが現実に戻り、慌ててゼインを見上げた。
ゼインは表情を変えずにカリーと頭領を見ている。
「直ぐ?」
カリーは頭領の手をジッと見たまま聞いた。
「直ぐだよ」
優しいが微かに殺気が込められている声音に、カリーは背筋を寒くして頭領を見上げる。
冷たい視線は拒否は許さないと語っていた。