第6話 新たな陵辱者-8
「今、ちょっといいですか?」
「何でしょうか?」
「だから、ちょっとお話が……」
なかなか用件を切り出さない男に、紗希の警戒心が高まってきた。
「何の、お話ですか……?」
「……」
男が無言になった。
「用がないのなら帰って下さい」
これ以上、男につけ入れられたくない。そんな思いの紗希だった。
すると、それまで俯き加減だった男が視線を上げた。
画面に映った男は、口の端を吊り上げていた。
笑っているようだった。
紗希の背筋に悪寒が走った。
「……奥さん、不倫していますよね」
予想もしない言葉に紗希の心が乱れる。
「知ってますよ。隣の蛇沼と酒屋の馬淵でしょ」
変わらない落ち着いた声。しかし、そこには悪意が滲み出ていた。
「ねえ、奥さん。ここ開けて下さいよ。いいんですか?旦那さんにバラしちゃっても」
「……ちょっと、待って下さい」
紗希は暗澹たる気分で玄関に向かった。
まさか、自分が蛇沼達と不倫をしていると言われるなんて心外だった。
嫌で、嫌でたまらないのだ。裕一との幸福な生活を守るために、仕方なく言う事を聞いているのだ。
紗希は、そう強く訴えたかった。
目の前に現れた倉井は、体型こそ平均的だが、その顔色は悪く、青白かった。
今どき珍しい長髪は、単に不精しているだけなのだろう、艶がない。
確か、裕一と同じ年齢と聞いていたが、小ざっぱりとした裕一と比べると、老けて見えた。