挑発-7
「それにしても、土橋ってモテるんだなあ。……あとでモテる秘訣でも教えてもらおうかな」
歩仁内くんは鼻の下をこすりながら小さく呟いた。
やっとの思いで事情を話したのに、呑気なことを言う歩仁内くんをジロッと見ると、彼は肩を小さく丸めて、
「……ごめん」
と謝った。
私はフウッと息をつき、
「歩仁内くんならモテるでしょ」
と、頬杖ついて彼を見つめた。
日差しが差し込んで茶色く見える歩仁内くんの髪の毛は少し癖っ毛なのか、毛先が所々跳ねている。
そういう所も愛嬌があってなんとなく母性本能をくすぐられる。
「おれはねぇ、よくそんなこと言われるけど全然モテないよ。いい人どまりなんだよね、いつも」
「彼女はいないの?」
「……残念ながら。好きな娘はいるんだけど、他の奴が好きみたいだから、絶賛片想い中」
歩仁内くんは照れたように椅子から立ち上がり、窓から景色を眺め始めた。
多分顔が赤いのを見られたくないのだろう。
「そっか、お互いなかなか辛いね」
私は静かに微笑んだ。
「おれはさ、恋愛経験ないからアドバイスとかはできないんだけど、愚痴聞くくらいならいつでもOKだから。早起きしたら今日みたいに場所の提供もしてあげるし!」
歩仁内くんはクルッと私の方に向き直ると、いつもの人懐っこい笑顔を見せた。
「……ありがと。じゃあ私も歩仁内くんの恋がうまくいくように応援するから」
私が言うと、歩仁内くんは困ったような苦笑いになった。
「おれのは……当分いいよ。おれは、彼女がいつか完全に好きな奴にバッサリ振られる日を待ってるから」
「うわ、性格わる!」
「振られて弱ってるとこにおれが優しく慰める……これがおれの作戦なの」
歩仁内くんはそう言ってニカッと笑うと、スタスタと入り口の前に歩いてガラガラと戸を開けた。
そんな彼の笑顔を見てたらほんの少し元気が出た。
報われない恋をしているのは自分だけじゃない、と思うと歩仁内くんに対して仲間意識のようなものを感じた。
「んじゃ、そろそろ教室に戻る?」
校舎はいつの間にかザワザワと賑わっていて、もうすぐ予鈴がなる時間になっていた。
「うん」
私はまだ赤いであろう瞼をゴシゴシこすってから同じようにニカッと笑い、椅子から立ち上がった。