挑発-6
どうして親しくもない歩仁内くんに、今までのいきさつを話そうと思ったのかは自分でもよくわからなかった。
それでも何度も言葉に詰まり、嗚咽混じりで話がまるで進まない私のことを、根気強く待ってくれる彼の優しさが嬉しかった。
時間がかかったけど、大体の事情を話し終え、私はまた鼻水をチーンとかんだ。
「……そっか。なかなかキツい状態だったんだな」
「……ごめんね、勝手に歩仁内くんを好きってことにして」
言おうか迷ったけど、結局私が歩仁内くんを好きだと嘘を吐いたことも打ち明けることにしたのだ。
「いや、それは全然気にしてないから」
歩仁内くんは、組んだ手を机の上に置いてこちらを見たけど、私は泣き顔を見られたくなくて、思わず下を見た。
「前はよく土橋と二人で昼休み過ごしたりしてたじゃん。あれ見ておれ、二人は付き合ってるってずっと思ってたんだよな」
「……それはたまに沙織と大山くんが二人でお昼を一緒に食べるから、私が一人でいるから仕方なく来てくれてたんだって」
「でも、好きでもない娘と二人きりで昼飯なんて食うかなあ。やっぱり土橋は彼女より石澤さんのこと好きなんじゃないの?」
「だから、私を女だと思ってないんだから平気だったんでしょ?」
彼女にキスマークをつけるくらいうまくいってるんだから、と思わず口に出そうになったが、なんとかこらえた。
「うーん……」
なぜか歩仁内くんは納得いかないらしく、眉をひそめて口を尖らせている。
「まあ、私が今しなきゃいけないことは土橋くんのことをサッサと諦めることなんだけど、それがなかなか……ね」
嗚咽も少しずつ収まり、私は自嘲気味に小さく笑った。