挑発-4
静まり返った教室はとても居心地悪くて、とにかく誰でもいいから早く教室に入って来てほしかった。
一人で気まずさを感じている私をよそに、歩仁内くんは英語の辞書や教科書を広げて、何やらノートに書き込んでいる。
私も、全く頭に入らない問題集を手当たり次第パラパラめくってみた。
時折歩仁内くんに視線を向けるけど、彼はシャーペンをクルクル回しながらパラパラと辞書をめくったりしていて、こちらには全く無関心なようだった。
結局意識してるのは、私の方だけなんだよね。
でも、いくら彼が平気だとしても、私がこの重い空気に押し潰されそうだったので、トイレで時間を潰すことに決めた。
私が問題集を閉じて、机の中にしまおうとした所で突然、
「あー、気まじぃ」
と、歩仁内くんの声が聞こえてきた。
びっくりして問題集を手に持ったまま彼の方を見ると、歩仁内くんは大きな口を横にニッと開いて、
「……って思ってたでしょ?」
と、シャーペンを机に置いてガタッと椅子から立ち上がった。
思わず本音を指摘されて、私は口を尖らせて彼から目を逸らす。
何も言えない私のそばに彼はやって来て、
「石澤さんってさ、仲のいい奴以外と話さないよね」
と言いながら、私の前の席の椅子をガタッと引いて、背もたれを挟むように座った。
「そんなことないよ……」
「だって、今おれに話しかけられてすげぇ困った顔してるもん」
歩仁内くんは、ニコニコした顔で私の机に肘をついた。
初めて間近で見る彼の顔。
くっきりした二重の大きな瞳に口角の上がった大きな口、少し低い鼻がやけに愛嬌がある。
いつも楽しそうにニコニコ笑う彼はクラスでも人気者だ。
こんな人気者が私に話しかけてくることに戸惑って、私はあちこち目を泳がせながら、
「……違うってば」
と、小さな声で呟いた。