最終話-2
「……よ? ねえ、起きなさい」
「死んじゃったんじゃないでしょうね?」
「それは困るわ、殺人犯になんてなりたくないもの」
パチパチと頬を叩かれる刺激で、マヤはうっすらと目を開いた。
体のあちこちが痛い。
間接照明がぼんやりと照らす室内。
20畳はあろうかというような広さのリビングらしき場所には、凝ったつくりの調度品が散りばめられている。
足に触れるワインレッドの毛足の長い絨毯も、さりげなく置かれている応接セットや花瓶なども、おそらく高価なものに違いない。
マヤは痛みを堪えながら、ゆっくりと顔を上げた。
まわりを囲む女たちから、ほう、と安堵のようなため息が漏れる。
「よかった。死んじゃったかと思ったわ」
「ほんと。簡単に死なれたんじゃ、つまらないものね」
ひとりが笑いながら近付いてくる。
白いレースで飾られた上品なワンピースが視界に入る。
「楽しかった? ひとの旦那に手を出して」
顎を思い切り掴まれ、無理やりに顔を正面に向けられた。
写真に撮られていた場面が蘇る。
公園での情事。
あのときの相手、松山の妻がそこにいた。
怒りに顔を歪めながら叫ぶ。
「家では、全然わたしの相手なんてしてくれないのに……あんたを抱くときはあんなに嬉しそうな顔して……絶対に許せない!」
バチン、と大きな音を立ててマヤの頬を強く打つ。
ふらりと体が揺れる。
部屋の反対側の壁にある窓ガラスに、全裸で柱に縛り付けられている女の姿が映っている。
両手を真上に上げ、足を両側に大きく開き、細い縄のようなものを幾重にも巻きつけられた哀れな格好。
形の良い乳房もきつく縛りあげられたせいで歪み、妙に乳首とそのまわりだけが強調されている。
両足は曲げられたままで縄が掛けられ、陰部の奥までのぞけるほどに開かれた状態だった。
自らの体重で下にひっぱられ、少し動くたびに縄がぎゅうぎゅうと体を締めつけてくる。
あちこちが擦れて痛い。
そこで初めて、マヤはそれが自分の姿であることに気がついた。
「やっ……こんな、やめてよ! 早く……下ろして……!」