第四章 淑女墜落-1
深夜、美優はひとり広いリビングでぼんやりとテレビ画面を見つめていた。
明日のことを考えると、まったく眠れそうにない。
『奥さん、明日はシンプルな感じのワンピース姿で来なさい。キャミソール、ブラ、ショーツなど、下着はいっさいつけてはなりませんよ。いわゆるノーブラノーパンってやつです。わかりましたね。それと、ここへ来る途中に魚屋、肉屋、クリーニング屋と、それぞれに挨拶程度でかまわいませんので一声ずつ掛けてきてください』
『そ、そんなこと……!?』
『はっはっは、いつもお世話になってるんだ、たまには奥さんのほうからもサービスしてやんなくちゃ』
恵比寿さんのような笑顔でやんわりと言う張元に、美優はもちろん強く反発した。
『私達はこのビデオを世界に配信することが出来る。それがどういうことかお分かりですね。旦那さんはもちろん、あなたを知る全ての人が閲覧出来るんですよ?』
録画されている自身の痴態行為のことを口にされると拒めるはずもなかった。
最初の取引の際に、どうしてあのような軽率な判断をしてしまったのか……それが悔やまれてならない。
美優は頭を抱えた。
夫に迷惑を掛けることだけは絶対に避けなければいけない。
男達の意図することは解っている。
自分をとことん辱め、飽きるまで肉体を貪ろうという腹に違いない。
だったらせめてその陵辱が、卑劣極まりない男達が早く自分の身体に飽きてしまうように……とにかく黙って要求されることに従うしかない。
非現実的な凌辱によって賢明さを失ってしまった脳は、精密な思案力などもうどこにもなかった。
当日、午前9:30―--
人目につきたくない、そんな思いでキョロキョロと周りを見渡しながら、美優は出来るだけ人の少ない場所を歩いた。
平日の昼前とあって、幸い商店街のほうは閑散としている。
「い、今のうちに急いで行けば……」
挙動不審な態度はかえって人の眼を向けてしまうと思い、できるだけ平然を装った。
だが、ときおり吹いてくるムッとするような風が悪戯にワンピースを密着させ、そのたびに身体の曲線が浮き出してしまっているようで何とも落ち着かない。
さり気なく何度もお尻に手を当てながら、美優は足早に馴染みの店をまわった。