第四章 淑女墜落-3
「あ、あの、私これから行くところがありますので、これで失礼します」
「あっ、ああ、すみませんね、お時間取らせちゃって」
「じゃあ奥さん、後でスーツ取りに来られるのを待ってますから」
一礼して去って行く美人妻の後姿を、ジイッと見つめる中原と田所。
「田所さん、奥さんってさ、もしかして下着つけてないんじゃないか?」
「あたっ、いまさら気づいたの? 俺は見た瞬間にすぐ分かったよ。あんなぺらぺらのワンピースなのに下着の線がまるでなかったからね〜。ありゃあ、もしかして……」
「もしかして?」
「不倫相手でも出来たかもしれねえな〜、それもマニアックな性癖もちのよ」
「げえっ、マジでか!!」
二人の背後からひょこっと顔を出した源太郎が耳元で大きな声を上げた。
「うわっ、ビックリした〜。ゲンさん居たのかよ!」
「居たって、俺はずっとここに居たじゃねえか。おたくらだって挨拶して入ってきただろうに」
「あらら、そうだった。あ、そうそう、俺らゲンさんを迎えに来たんだけど、ボチボチ出られそうかい?」
「ああ、もう少ししたらカカアが戻ってくると思うからさ。まあ、中で茶でも飲んで待っててくれよ。それにしても、大村さんも急だよな〜、昨日の今日だぜ? アンタんとこみたいに暇じゃねえってんだよ。ったく」
中太りとノッポの背を押しながら、源太郎が怪訝そうに言う。
「まあまあ。大村さんの事だ、何かまた面白いネタでも掴んだんだろうよ」
「へんっ、どうせだったらあんな美人のネタでも掴んでもらいてえもんだ」
「おお、そりゃごもっとも! 今度さ、俺たちで奥さんの周辺を探ってみっか?」
愉快そうに言う田所に、二人もまんざらではない顔で笑った。
トントン―――
もうすっかりと通いなれてしまった大村カメラへの裏道。
美優は、裏ドアをノックしてから静かに中へ足を入れた。
「ほっほう、奥さん、実にお美しい! エロい身体の線がハッキリと分かりますぞ」
「うん、やっぱり奥さんの身体には下着なんて不必要だな」
恵比寿さんのような笑顔を浮かべた張元と、黒ぶちメガネの奥で陰湿な眼をグッと見開いた大村が揃って口を開く。
「ちょっと後ろを向いてワンピースの裾を捲くってもらえますか」
「えっ……?」
「ほら、早くなさい」
「は、はい……わかりました」
大村に言われ、美優はグッと下唇を噛み締めながらしぶしぶと後ろを向いた。
そして、のろのろとした手付きながらも言われた通りにワンピースの裾を捲り上げた。