新妻 真木陽子-1
<新妻 真木陽子>
今日は金曜日。休日を目の前に感情を抑えられないのか、どの生徒も
いい顔をして休み時間を過ごしている。
教室で友達と会話をしている者、グラウンドでスポーツを楽しんでい
る者、カップル同士で幸せな時間を過ごしている者、人それぞれ楽し
み方は違う。裕人は昼休みをまた保健室で過ごしていた。
「ヒロ君、ヒロ君、いい物を持って来たよ。」
元気な由美の姿。
裕人は、由美の怒った姿や悲しんでいる姿、動揺している様子すら見
た事がないなと、ふと思った。また、そんな姿は見たくないとも思った。
「何ですか?いい物って?」
とても興味があるような態度ではない。
「見たい?」
「見せたいんでしょ?先生は。」
冷静な裕人の一言に由美は頬っぺたを膨らませた。
「別にっ!見たくないなら見せないけどっ!」
由美の負けず嫌いな性格が出る。
「嘘です。見たいです。見せて下さい。」
裕人はまだ中学生というわりには相手の気持ちを考え、大人の対応を
する。そんな子供っぽさが無い事も由美が気に入っている理由の1つ
だった。
「ヤダっ。見せてあげないっ。」
裕人とは反対に子供のような態度を取る。
「先生!子供じゃないんですから。」
「ヒロ君を喜ばそうとワクワクしてたのに...最初にあたしを裏切
ったのはヒロ君だよっ!」
日常のやりとり。喧嘩ではなく、ラブラブに近い感覚だ。
「すいませんでした。先生見せて下さい。」
裕人が先に誤るのも日常の事だった。
「んじゃー。お詫びにキスして!」
由美はもう目を閉じてキスを待っていた。
「はぁ...」
初めの頃は由美とのキスに緊張していた裕人も今では慣れたものだった。
由美とのキスは何かに包み込まれる様な、そんな感覚は前と一切変わら
なかった。
裕人は由美の唇にそっと触れる。3秒くらいの優しいキス。
由美が目を開き、笑顔を見せた。
「ヒロ君。見て見てっ!」
由美はブランド物の大きめなポーチから次々とアダルトグッズを取り出
した。ローター、バイブ、ローション、学校には相応しくない物が、机
の上に並べられた。
「先生が...使うんですか...」恥ずかしがりながら言った。
「あははっ。違うよー。いじめるときにっ!」
「で、ですよねっ」
「あっ、ヒロ君!あたしが使うところ想像したでしょ!えっち!」
由美がニコニコして言った。
「し、してないですよっ!」
裕人は顔を真っ赤にしている。
「んふふー。今度見せてあげるねっ」
「えっ...み、見なくていいですっ!」
由美はこんな裕人の焦っている様子が好きだった。
「そんなこと言いながら、硬くしてるじゃなーいっ!んふふ。
まぁいっか。今度これを使って一緒に誰かをいじめちゃおーね!」
由美に新たな武器が揃った。
まさに鬼に金棒。裕人はそう思った。
6時間目の英語の授業を受けているときメールが来ているに気づいた。
裕人にメールをする人は限られてる。彼女である優奈かあの人くらい
だ。最近は後者のほうが圧倒的に多い。
”放課後来てね。特別ゲストも呼んでるよー。金曜日だしたっぷり楽し
もー!!!”
今までになくテンションの高さが感じられるメールだった。
裕人はため息をつきながらメールを送信した。
”今日、友達と遊んで帰るから晩飯いらない。”
ため息とは対称的に裕人の無意識は乗り気だった。
放課後。
「ヒロ君に催眠掛けていい?」
由美が突拍子もない事を言った。
「いいわけないでしょ!ダメですよっ。絶対!」
裕人は由美の発言にびっくりして大声を出す。
「ヒロ君には催眠掛けないようにしてるんだけど、ヒロ君に害が無くて、
ヒロ君の許可が出たら催眠掛けようかなぁーと思って。」
由美がいかに裕人を大切にしているかが見える発言だった。
そんな由美の優しさに裕人の心が揺れた。
「一応聞きますけど、どんな催眠ですか?場合によっては...」
「ヒロ君がドSになる催眠。面白そうでしょ?」
確かに害は無い。ただ、他人に迷惑が掛かる可能性もある。そう思った。
「自分じゃなくなりそうで怖いですね。先生に暴力とかしたら?」
「あたしに?あははっ!そんな効果は無いよっ!大丈夫。大丈夫。
安心して!」
「それなら...少し興味あります..」
由美が近くに寄ってきた。催眠を掛ける準備をする。
「本当はヒロ君が一番催眠に掛けやすいの。」
優しい笑顔でそう語った。
「どうしてですか?」
裕人は不思議そうな顔をして由美の目を見つめた。
「催眠を掛けられる人は相手を信頼しないとダメなの!あたしくらいの
技術があれば話は別だけど。リラックスが一番大切なのよ。ヒロ君は
あたしと一緒にいてもリラックスできるし、あたしを信頼してる。だ
からっ!」
由美が正面から裕人の頭を自分の肩に乗せ、裕人の体を軽く抱きしめた。
「ヒロ君。リラックスして。あたしを信用して、あたしに倒れてきて!
あたしが支えてあげるから大丈夫。安心して。力を抜いて。」
裕人は由美の声が心地いい。由美の匂いが心地いい。もうすっかり体の
力は抜けていた。
「ヒロ君。安心して。あたしに身を任せて。安心して。あたしの声が
気持ちいい。あたしの声が気持ちよくて眠くなる。安心して。
もうすっかり催眠状態。ヒロ君はあたしの声が気持ちいい。」
裕人は催眠状態に入ってしまった。