ゼロ-8
「それでですね、どれぐらいの摂取量で売り物になるか試してみたんですが……原液1滴でこれでは困りますね」
「ど……ういう……こと……だ……」
「覚えてませんか?記憶障害も有りですね」
男はいつの間にか取り出したノートに、記憶障害の事をカリカリと書き加える。
「答えろ!」
ドゴッ
ゼインは左手を背後の壁に叩きつけて叫んだ。
「ザルスの樹液により理性を失った君は、私に襲いかかりました。私は挿れる専門なので君を受け入れる事は出来ません。仕方なく君を『封印』して檻に閉じ込め、他の奴隷に相手をしてもらいました」
(と、いう事は……この死体は奴隷で……俺が……?)
ゼインの身体の震えが激しくなり、呼吸が止まりそうなぐらい速くなる。
「理性が跳ぶと力の加減が出来なくなるんですね。直ぐに殺してしまうので大変でしたよ」
「!!!?」
捩曲がった手足……千切れそうな腰……これは全てゼインがやった事。
ゼインは再び吐き気に襲われえずいたが、胃の中は空っぽで苦しいばかりだ。
「まあ、死んでも穴があれば大丈夫でしたから」
男は顔色ひとつ変えずに足元の顔をひとつ踏みつけた。
ぐしゃりと潰れた肉塊から眼球が零れ出てぷかりと血の海に浮かぶ。
「安心して下さい。お相手にも樹液を投与しましたので、快楽の中で苦しむ事は無かった筈ですよ」
ガンッ
男の言葉が終わった瞬間、ゼインは男の首を掴んで反対側の柵に押し付けた。
「キ……サマ……」
ギリギリと首が絞まっているのに、やはり男は無表情だ。
「次はかなり薄めて試してみましょう。ああ、それと怪力が使えないように細工をしておきましたから」
男はそう言うと、ゼインの手の中で液体化してバシャッと崩れてしまった。
宙を掴んだゼインは、その拳をガツンと柵にぶつける。
その柵の向こうに、本物の男がやはり無表情で立っていた。
「暫くそこで落ち着いて下さい」
男は檻に背を向けて静かに立ち去る。
何も無かったかのようなその態度に、ゼインは怒り狂い柵を握って大暴れする。
しかし、男が言った通り、いつもならあっさり壊れる柵はビクともしなかった。
何も出来ない無力なゼインは、ズルズルと崩れて名も知らぬ奴隷達に目を向ける。
「……ゴメン……ゴメン……ゴメン……ゴメン……」
こんな酷い死に方をさせてしまって……命を奪ってしまって……。
ゼインは止めどなく流れる涙を拭きもせずに、死体をひとつひとつ掻き集め、1人1人に謝り続けた。