ゼロ-6
「ここから出ちゃいけねぇなら買い物に行けねぇ。リストを渡すから買ってきてくれ」
「分かりました」
奴隷が主人に買い物に行けと言う異常な状況なのに男は動じない。
ゼインのでかい態度を咎める様子も無いので、ゼインは一応確認をとる。
「なあ……俺ってこんな感じなんだけど良いのか?敬語にしろっつうんならそうするぜ?」
男はスプーンを手に取ってゼインを見る。
「仕事が出来るなら喋り方など気にしません。所で、君は食べないのですか?」
テーブルに準備してあるのは1人分だ。
「普通、奴隷はご主人様と同じテーブルにはつかねぇよ」
「そうですか」
「そうだよ。何?奴隷ぐらい見た事あるだろ?」
丁寧な話し方に物腰も上品だ。
それなりの階級の育ちだと思っていたのだが……。
「興味が無いものは見ないようにしていますので、見た事はあるかもしれませんが認識はして無かったと思います」
「ああ、そう」
確かにそういう貴族は多い。
「て事は俺には興味があるんだ?」
「はい」
「ふうん……まあ、いいや。早く食べてくれ。感想を聞きたい」
ゼインは男に向かってニードルを振り、食事を促した。
男は促されるままにシチューを口に運ぶ。
「んっこれは美味しい」
「だっろぉ?」
ゼインはにか〜っと得意気に笑って満足そうに台所へ戻った。
その後ろ姿を眺めながら、男は微かに口元に笑みを浮かべるのだった。
その男との生活は奇妙で、奴隷史上最高に最悪だった。
男は昼間、仕事で殆ど家に居ないが夜と休みの日はゼインと過ごし、色んな話をする。
話をしている時間は好きだった。
ゼインの他愛ない話を真剣に聞き入る男が滑稽で可笑しくもあった。
しかし、たまに行われる実験がそれ以上に最悪だったのだ。
「今日は何の薬?」
「企業秘密です」
どうやら男の仕事は薬剤関係らしく、様々な依頼を受けて薬を調合していた。
ぷつっと腕に注射針が刺さり、ゼインは顔をしかめる。
ドクッ
「ぅあ゛っ?!」
薬が注入されたそばから血管が脈打って身体が熱くなった。
「う゛ぅっあ……」
嫌な汗が全身から吹き出し、ボタボタと床に落ちる。