ゼロ-5
とりあえず仕事場所を案内してくれと頼むと、男は素直に案内してくれたのだが……凄まじくきたなかった。
間取りは普通の、ちょっと金持ちの家に似ている。
しかし、あらゆる物が散らばったままだったのだ。
台所のまな板には腐りかけの生肉……居間は本や飲みかけの何かが入ったカップが沢山置いてあり、カップに至っては極彩色のカビが生えていてある意味アートだ。
風呂場なんか見れたものじゃなく、脱ぎ散らかした服やらが脱衣場から洗い場まで山積みでドアが閉まらない。
「……アンタこれで平気なのか?」
「何がです」
無表情で首を傾げる男に、ゼインはぐったりと脱力して両手両膝を床に着いた。
どうやらこの男……まともな神経の持ち主じゃないらしい。
奴隷の意地でこの男に普通の生活をさせてやる……ゼインの心に変な使命感が生まれた瞬間だった。
「ったく……どうやって生きてたんだ、この環境で!?」
ゼインはブツブツ文句を言いながらも手際良く家の中をかたづけていく。
男はゼインの血を採った後、「地下牢とこの階以外には行くな」と言い残して出ていってしまった。
まあ、これだけしっかり結界を張られては行きたくても行けない。
男の帰りは5時間後だと言っていた。
それだけあればこの家をピッカピカにする自信がある。
水回りから始めてリビング、寝室……ゼインなりのやり方で書斎も片付けた。
「……これは……驚きましたね……」
きっかり5時間後に帰ってきた男は、ドアを開けたままの姿勢で固まった。
「おう。お帰り。飯喰うか?茶が先か?それとも風呂か?」
男に気づいたゼインは矢継ぎ早に問いかける。
男はパチパチと瞬きした後、被っていたフードを後ろにはね除けてローブも脱いだ。
さらりと長い白髪が肩から背中へ流れる。
「では、食事でお願いします」
「はいよ」
ゼインは男の手からローブを受け取り、ハンガーに掛けた後パタパタと台所へと消えた。
ゼインが食事の仕上げをしている間、男は家の中を見て回る。
いつも物が散乱していて、それを踏んづけて歩いていたので気づかなかったが、廊下は綺麗なクリーム色だった。
つまづく心配無く歩けるのは中々良い、と思いつつ男は風呂場や寝室も覗く。
どちらも清潔になっており気持ち良さそうだ。
準備や片付けが面倒なので『浄化』の魔法で済ませていたのだが、今日はお湯に浸かりたいと思えた。
「おーい。準備できたぞー」
ゼインの大声を聞いた男はリビングへと戻る。
テーブルには温野菜サラダに具沢山シチュー、それに焼きたてパンが並んでいた。
「材料はどこから?」
「台所の奥に氷室があった。保存食とかも使ったから補充した方が良いと思う」
ああ、そう言えばそんなものもあったな、と男は納得してゼインの引いた椅子に座る。