ゼロ-17
「…なぁ……もうちょっとこのままで良いか?」
女を落ち着いて抱くなんて始めてだ……抱いているのはこっちなのに、包まれているようで凄く安心する。
「べ、別に良いけどぉ」
ゼロとは違い、女の方は落ち着きなくゼロの胸に顔を埋めてもぞもぞしていた。
(あれ?)
鋭い嗅覚が甘い匂いを嗅ぎわけて、ゼロは鼻をひくつかせる。
「お?発情した?」
「ぅえ?!」
その甘い匂いは女性が欲情した時の匂いだ。
ゼロがクスクス笑って女を強く抱いたので、図星を指されたらしい女はパニクった。
「肉体改造の賜物〜俺って嗅覚も鋭いんだな」
ゼロはそう教えてやり、クンクンと女の耳元を嗅ぐ。
「んにゃっ?!ちょっ?!」
女は嫌がって逃げようと身体を捻った。
「ははっ冗談だよ」
ゼロはもう一度胸いっぱいに匂いを吸ってから、腕の力を抜いて女を解放する。
「んもぅっ」
身体を離して髪を整える女の顔は、ほんのり赤く染まっていて思わず見とれてしまう程に魅力的。
「何ぃ?」
女が首を傾げるとフワリと髪が揺れて益々可愛いらしい。
ゼロはもう一度女に触れたくて、手を伸ばし女の髪を軽く掴んだ。
そして、引き寄せるように顔を近づけて……。
「やーー!ダメダメダメっ!!」
唇が触れそうになった瞬間、女が叫び声をあげゼロがハッとしたと同時に両手で口を塞がれた。
「むぐっ」
ゼロはつい嫌な顔をししてしまったが、当然だなと素直に身体を離す。
「悪ぃ」
(何をやってんだ俺は)
ついさっきまで触れるのさえ怖がってたクセに、大丈夫だと分かった途端これだ。
沢山の血で汚れたこの身体で、天使を抱こうというのか?
ゼロは自問した後、自嘲気味に笑う……いくらなんでも贅沢だ。
しかし、女は顔を真っ赤にした状態でしどろもどろに言い訳を始めた。
「いや、あの……嫌じゃなくてぇ……」
「は??」
「……その……」
女は両手で頬を包んで少年を見上げる。
(うわっ反則っ超可愛いっ)
分かってやっているワケじゃないだろうが、その仕草は女の可愛さを倍増させた。