ゼロ-15
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散々泣いて無茶苦茶叫んでも時は戻らず、自分だけ生きている事に変わりはなかった。
ゼロは仰向けに寝そべり、雨を全身に受ける。
虚ろな目に映る空は、どんよりしていて自分自身のようだった。
随分長い時間そうしていたが、雨足が弱まり雲間から太陽の光が出たのに気づいて現実に戻る。
片手を上げて手の平を光にかざして見ても、やっぱり血まみれの手だった。
「……何で生きてんだろうな……」
沢山の命を奪っておきながら自分は生きている……今はそれが苦しい。
「さあねぇ、死にたく無いからじゃなぁい?」
間近で聞こえた声に、ゼロは心臓が飛び出すんじゃないかと思うぐらい驚いた。
声がした方に顔を向けると、金髪に白い肌の……多分、同じ歳ぐらいの女がゼロと同じようにずぶ濡れで座っていた。
太陽の光が濡れた髪に反射して凄く綺麗で思わず見とれる。
(天使?お迎えか?……って、俺が上に行けるワケねぇっつうの……)
「……誰……?」
天使じゃないなら何者だろう、とゼロは聞く。
少し掠れた声に振り向いた女は、赤茶色の目をパチパチさせた。
長い睫毛に縁取られた目は、色こそ違ったがあの時の赤い眼に似ている。
「ん?どうでも良いじゃん?何か死にかけてるみたいだから?看取ってあげよっかな〜ってさぁ」
そう答えた女は、ずぶ濡れで血まみれの奴隷あがりのゼロを食事に誘う変な女だった。
正直、ほっといて欲しかったのだが、女の目がどこかすがるような色だったのだ。
もしかしたら、この女もどん底なのかもしれない……そう思って彼女の申し出を受けると、女は心底嬉しそうな笑顔を見せた。
何とか自分の足で立ったゼロの手を引いて、女はお喋りをしながら歩く。
何が食べたいかとか、あそこの唐揚げは絶品だとか、甘い物は好きかとか、一方的に喋って勝手に色々買っていった。
店に入るには怪しすぎるから宿に行こうと言った女は、ゼロを部屋に入れると「シャワー浴びちゃって〜」と、また出て行く。
「……変な女……」
躊躇い無く血まみれのゼロの手を握った女の手……その暖かさが残る手を、ゼロはジッと見る。
(マジで天使かも)
生きている事が苦痛で仕方ない今、現れた天使。
彼女に「生きろ」と言われている気がする。
(うん…やっぱ……生きてたい……な……)
死んだ人達の分も生きる、とか偽善じみた考えじゃなくて、ただ純粋に……血にまみれても、物凄く汚くても、やっぱり『生』は純粋だ。
ゼロはバスルームに入ると、頭からシャワーを浴びる。
お湯と一緒に流れていく血を眺めながら、ゼロは罪を背負い、異形の自分を受け入れて生きていく覚悟を決めた。
バスルームから出たゼロは頭を拭きながら、女の買ってきた食事を物色して彼女オススメの唐揚げを頬張る。