ゼロ-14
『グウウゥゥ』
狭い部屋がギチギチになる程に大きくなったゼロは、低く唸って男に蒼い目を向けた。
何も見てない目は、今まで何度も見てきた目と一緒。
『グオアアァァッ!!』
ゼロはガラス壁を殴り、そこから飛び出した。
ゼロは建物内を巡り様々な実験を目にして、それを壊していった。
中にあるもの全部……生きているものも全て……。
止めようとする研究員達も全員、首を喰い千切った。
傷口からは男と同じ赤黒い触手が這い出て暫く動いていたが、次第に動かなくなる。
さっき産まれ出たばかりの子供達も、腹に子供を宿している母体も全て……ゼロが喰い殺していった。
『グアァァーーーッ』
建物内に動くものが無くなるまで全てを壊した。
何もかも無かった事にしたかった……体験した事も見た事も……何もかも。
壊した建物の中から勝手に火の手があがって、勢い良く燃えていった。
燃える建物を眺める1匹の獣は、炎に照らされて銀色に輝く。
「火事だぞっ!!」
「火を消せっ」
近くの住民達の声が聞こえ、ゼロはその場から逃げる。
森の中を走りながら身体が元に戻っていくのが分かった。
民家の洗濯物を失敬してそれを身につけると、ようやく足を止める。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
ゼロは両手を膝に置いてひたすら空気を貪り続けた。
急激な身体の変化であちこちが痛む。
ポツポツと空から雨が降りだし、ゼロの身体を濡らした。
息をしているのも、身体が痛いのも生きてる証拠。
「ア……ああ……」
だが、今は……それが苦しい……。
『生』は純粋で綺麗な筈なのに、生きている自分が醜くて汚ない。
「うわあぁぁーーーーーーーーっ!!」
ゼロは産まれて始めて生きている事を呪い、産まれて始めて声をあげて泣いた。
何時間も、何十時間も……声が渇れて喉が潰れても……ずっと。
ーーーーーーーーーーー
「ゼインってば!!」
「あ?」
ぐいっと手を引っ張られたゼインは、ハッと我に返って足を止めた。
「大丈夫ぅ〜?汗だくだよ?」
手を握ったままだったカリーが下からゼインの顔を覗く。
ふわふわの明るい金髪が揺れて、始めて会った時と同じ顔で問いかけられた。
「あ、ああ……悪ぃ……大丈夫」
回想に没頭しすぎてカリーの事をすっかり忘れていた。
「そ?でも、ちょっと休憩しようよ〜」
カリーは繋いだ手をぶんぶん振ってゼインにねだる。
相変わらずの子供じみた仕草にゼインはブッと吹き出した。
「何よぅ?」
「別に」
始めて会った時、カリーが「天使」に見えただなんて口が裂けても言えない。
あの時、カリーが居てくれたから今の自分がある。
カリーが居なかったら、あのまま死んでいただろう。