ゼロ-13
「つまらないものを見せましたね。行きましょう、ゼロ」
男がゼロの肩に手を置いた瞬間、ゼロが動いた。
ガガンッ
男の頭を右手で掴んだゼロは、力任せに男を壁に押し付けた。
「どうかしましたか、ゼロ」
頭をギリギリと締め付けているゼロの指の隙間から、男は無表情の目で何でも無いように聞く。
「どうかしたかだと?ああ……どうかなっちまいそうだよ」
ゼロは震える声で男に答える。
男の頭を掴むゼロの爪がギュイッと伸びて男の頭に食い込んだ。
「アンタ……命を何だと思ってやがる……」
ゼロの血走った目の瞳孔が拡大して縦に伸び、腕から灰色の体毛がざわざわと生えてきた。
「ゼロ……」
ゼロの変化を見た男の目が輝き、口角が不気味な形に引き上がる。
男の手が伸びて灰色の毛に包まれたゼロの頬を包んだ。
「ああ……君は凄い……私を受け入れて自分のモノにした……やはり、ゼロ……」
男の歪んだ口から赤黒い触手が伸び出た。
「私の器に相応しい」
「!!?」
びゅるっと伸びた触手がゼロの身体に巻き付き、ギリッと絞める。
「が……ぐぁっ」
ゼロは男の頭を掴んでいた手に、グッと力を入れた。
グシャッ
男の右側頭部にゼロの親指がめり込み、男の眼球が押されて飛び出る。
その状態でゼロは男を床に叩き付けた。
ベシャッ
ブチブチと触手が千切れ、不快な音をたてて床に叩きつけられた男は、顔の右側を潰し残った左目だけでゼロを見上げグニャアと口元を歪める。
「ハッ……ア……ハッ…ハッ…」
ゼロは息を切らして男をジッと見ていた。
男の乳白色の目の真ん中……黒い瞳孔から色が消えていくのをずっと……。
「う……アアァァアアーーーーーーーーー!!」
ゼロは喉を反らして雄叫びを上げた。
身体がメキメキと音をたてて大きくなり、服が弾け飛ぶ。
ゼロの顔が前に伸びて獣のような形状に変わっていった。
「ア゛ア゛アアアァァァ』
声が低い咆哮に変わり、全身を覆っていた灰色の体毛がザアッと伸びる。
その姿はまるで、おとぎ話に出てくる『狼男』……違うのはライオンのような鬣がある事だ。