ゼロ-12
(ここ……知ってる……?)
妙な既視感は確信に変わった。
空気の臭い……耳に響く呻き声……それに、身体が自然と動く。
ゼロの呼吸が速くなり、背中に冷や汗が流れた。
足が震えて上手く歩けないのを、壁づたいに何とか進む。
ーダメダ イクナ
頭の中で警告音が鳴る……それでも、ゼロは進んだ。
何ヵ所かあったドアを無視して奥へと歩く。
一番奥のドアの前でゼロの足が止まった。
「ハッ…ハッ…ハッ…」
汗が顎を伝って床に落ちた。
取手に伸ばした手がそれ以上動かない。
「ゼロ」
「ヒッ」
男の声が背後からかけられ、ゼロは息を飲んで固まった。
「急に居なくなったと思ったらここでしたか。探しましたよ」
男の声が段々と近づく……ゼロは振り向かずにゴクンと生唾を飲む。
「ゼロ、おいで」
男の足音がカツカツ響く。
ゼロはグッと歯を喰いしばって取手を掴んだ。
ガチャッ
勢い良く開けたドアの向こうは、ガラスの壁がある狭い部屋だった。
そのガラス壁の向こう側にも部屋があり、そこには手術台がある。
そこに寝ているのは女性だった。
女性はガリガリに痩せているのに腹部だけはあり得ない程大きく膨らんでおり、それがグニャグニャと波打っている。
波打っている腹部の内側から、押すように小さな手や足の形が浮き出ていた。
ゼロはガラスに両手をついて、見開いた目でそれを凝視する。
「……あ……」
知ってる……この光景を覚えている……しかも、覚えているのは……。
あの、腹の内側だ。
ゼロの手を置いたガラス面にピシッと細かい亀裂が入る。
「『畑』を知っていますか?」
不意に男がゼロに声をかけた。
「奴隷を人工的に作り出す場所です。ここが『畑』ですよ」
ゼロはガタガタと震える手をギュッと握る。
ガラスの向こうでは白衣を着た男が3人居て、女性の腹部を切り、中から子供達を取り出していた。
女性は何も反応しないままに絶命し、血まみれの子供達は蠢くだけで声ひとつ出さない。
生命ある子供は一ヵ所に集められて、白衣の男達によって何処かへ連れて行かれた。
形にもならなかった胎児や死んだ女性は、何処からともなく現れた赤黒い触手によって引き裂かれ、やはり何処かへと消える。
残ったのは血の海だけ……それでもゼロはそこを凝視していた。