ゼロ-10
「ああっああっ……い……やぁっ……っ!!」
女が大きく目を見開いたまま身体を大きく仰け反らせた。
ビクンビクンと痙攣した後、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
ゼロは霞む視界で崩れ落ちた女を目で追いかけた。
女の目はどこかを見ているようで、何も見ていない……快楽の果てに辿り着く死に……彼女も逝ってしまった。
ゼロの目から涙が零れ、頬を伝う。
「……注入するよりも飲用にした方が調節しやすいですか……」
何時間も2人の様子を観察していた男は、死んだ女の髪を掴んで引きずり、部屋を出て行った。
しかし、直ぐに戻ってきてベットの上のゼロに覆い被さる。
「可哀想に……傷だらけですね」
女に引っ掻かれて血が滲んでいる傷口を、男はゆっくりと舐める。
「ふっぁっ」
じわじわと樹液の効果が表れてきているゼロにとって、そのちょっとした刺激が快感を生み出す。
「ぁ……ヤメっ……」
ギシッと骨が軋んで腕に激痛が走った。
「さあ、本番ですよ」
「い……やだ……」
本番……ザルス樹液の実験はゼロの身体をほぐす為のもの。
ここからがゼロにとっては地獄の始まり。
首を振って嫌がるゼロの顎を掴んだ男は、グリッと顎の付け根に指を入れて口を開かせた。
「あぐぁっ」
「今日も耐えてみせて下さい」
男は自分の親指をカリッと噛み、それをゼロの口元に近づける。
じわりと浮き出た赤黒い液体が、生きているかのようにピクリと動いた。
びゅるっ
「ガハッ」
意志を持った液体はゼロの中に入ると狂ったように暴れだした。
「あああ゛ああ゛ぁっ!!」
ゼロの身体が大きく跳ねて男を突き飛ばす。
床に落ちた男は、それでも期待に満ちた目をゼロに向けていた。
基本的に無表情な男がこの時ばかりは感情を露にする。
「う゛あ゛っあ゛が」
身体の中が灼けるように熱くて、その熱が身体の中心に集まる。
樹液の効果など吹き飛ぶぐらいの激痛が全身を襲った。
そんな時、必ず脳裏に浮かぶのはいつか見た赤い眼。
赤い眼は静かにゼロを見つめていた。
「ああ゛あ゛」
バギッ
腕を拘束していた鎖が引き千切れて、同時にゼロの腕も折れた。
それをものともせずゼロはその手で喉を掻きむしる。
「ぅあ゛っがはっ」
熱がぐうっとせり上がってきて口から溢れ出た。
嘔吐物と一緒に大量の血液が吐き出され、血の滲んだベットを更に汚す。