或る少女の物語-4
『僕は、ひどい父親だったかもしれない。
でも君のことは本当に大好きだった。君が生まれた日に、病院で僕は泣いたんだよ。
こんなに可愛い娘を、いつかほかの男に連れて行かれるのかと思うと、
それが悲しくて泣いたんだ。
おかあさんにも、看護婦さんにも笑われたけど、僕は本気で誰にも嫁にやらないと、
そのときに誓ったんだ。おかしいだろう?
君が笑ってくれると、僕もうれしかった。泣いているのを見たら、僕も悲しかった。
えらそうなことは言えないけれど、僕は君に生きていてほしい。
生きて僕を覚えていてほしい。
そしていつか君が大人になって、素敵な女性に成長したら、
そのときには僕が悔しがるくらいのいい男が君を迎えに来るはずだから。
そのとき君はこころから、
生まれてきてよかったと思えるはずだから。
僕の後を追いかけてきてはいけない。
大好きな君の笑顔を、どうか最後に僕にみせてくれないだろうか』
声を聞きながら、彼女はぽろぽろと涙をこぼしました。そして鏡をのぞきこみ、涙をぬぐって、口角をしっかりとあげて目じりを下げ、これも父親がお気に入りだった八重歯を見せてにっこりと笑いました。
『ありがとう。君はとっても可愛い。
誰がなんと言おうと、僕にとっては世界で一番可愛い子だよ』
すぐに父親の声は聞こえなくなりました。
彼女は鏡に向かって、何度も笑って見せました。それはいつもの彼女よりも、ほんの少しだけ可愛らしい顔に見えたからです。