或る少女の物語-3
そんな彼女のもとに、ある日ちいさな知らせが届きました。
父親が亡くなったという知らせでした。家の中の人間はみんな、それを聞いて大喜びしていました。彼女の目には、大好きな母親さえもそのときばかりは得体の知れない化け物のように映りました。
みんなの前では絶対に泣けない。また叱られる。
彼女は柔らかな頬の内側の肉を噛みしめました。涙をこらえるとき、そうすると痛みで悲しさを忘れることができたからです。しばらくすると、肉が裂け、血が滲み、鉄の味が広がります。そうすると、なぜかすこし安心できました。
彼女はみんなが寝静まった後、こっそりと机に向かいました。なぜか家の人間はみんな、彼女が勉強することさえも嫌がったからです。勉強は嫌いではなかったので、彼女のテストは間違いがほとんどありませんでした。けれども、決して誰にも誉められることはなかったのです。
薄暗い部屋の中で算数の宿題を終え、学校で借りてきた本を数ページめくったところで、お父さんのことを思い出した彼女は一筋だけ涙を流しました。
「死」というものがどういうものなのか、どれだけ本を読んでもわからなかったけれど、でも、もうどこにもいないという漠然とした感覚は彼女を不安にさせました。
机の上にあった鏡をのぞきこみます。そこには父親にそっくりな顔がありました。目と鼻を真っ赤にしたその顔は、いつものとおり全然可愛らしくありません。
そのとき。
頭の中に、父親の声が響いたような気がしました。
『笑ってごらん。君の笑った顔が、僕は大好きだったから』
まわりを見回しても、どこにも父親の姿はありません。薄暗い部屋の中、ただ家の人間の寝息が聞こえるばかりです。
彼女は鏡をもう一度のぞきこみました。今度ははっきりと父親の声が聞こえました。