絶交-1
四時限目の授業が終わると、みんな慌ただしく立ち上がる。
席を確保するためにダッシュで学食に向かったり、購買に昼食を買いに走ったりする男子。
それぞれ仲のいいグループに固まって机を動かしたり、手を洗いに教室を出て行く女子。
いつもと変わらない光景の中で、私だけはさっきの授業の教科書やノートを出しっぱなしにしたまま、ボーッとその表紙を見つめていた。
「おい、何ボケッとした顔してんだよ」
土橋くんの声に我に返ったように視線を上に上げると、彼は私の前の席にドッカリと腰をおろした所だった。
「沙織、風邪なんだってな。倫平は今日みんなで学食行くってよ。アイツも沙織がいないと薄情だよな」
土橋くんはククッと笑って、コンビニの袋をガサッと私の机の上に置いた。
私は教科書やノートを机の中にしまいながら、彼が置いたレジ袋を見つめる。
土橋くんはニヤリと笑うと、パンとおにぎりとお茶と、そしてどこのコンビニでもすぐに売り切れてしまう、新発売のチョコレートをレジ袋から出した。
「あ〜、これ! いつも売り切れてて食べたことなかったんだよね。どこで売ってたの?」
土橋くんが買ってきたこのチョコレートは、オマケについてくる“エンジェルベア”と言う少し恥ずかしいネーミングの羽のついたクマのストラップが、あちこちの店で売り切れになる原因を作っていた。
このエンジェルベアは、全部で6色あってピンクは恋愛運、黄色は金運、青は仕事運、緑は健康運、オレンジ色は人気運、赤は総合運、に効くらしい。
とりわけみんな恋が叶うと噂のピンクのエンジェルベアを求めてこのチョコレートを買うのだけど、企業側の戦略なのか、ピンクはほとんどお目にかかれない代物で、ピンク欲しさにリピーターがしつこく買いあさっているらしく、店頭で見かけることはまずなかった。
「俺んちの近くのコンビニだよ。田舎だから結構売れ残ってたぞ」
「ねぇ、一口ちょうだい!」
かくいう私もピンクのエンジェルベアが欲しい人間の一人だったけど、それを口に出すと、何となく自分の気持ちが見透かされそうだったので、あえてチョコレートの方に興味があるような言い方をしていた。
物珍しげにチョコレートを手に取って見ていると、彼はそれをサッと取り上げ、
「これは、自慢用なんだよ」
とふてぶてしい笑みを見せた。