絶交-5
「……それでね」
私はおずおずと土橋くんの顔を見上げるけど、私の話に興味無さそうにあくびをしている。
「あの……私の完全な片想いなんだけどさ、今日みたいに土橋くんと二人でお昼食べたりしてると……その……誤解されやすいでしょ?」
その刹那、土橋くんはあくびをしていた口を閉じ、眉をピクッと動かしてから、私の方を見やった。
刺すような冷たい視線。
初めて土橋くん達と遊んだ日に、私が彼を怒らせたときのような居心地の悪さを思い出した。
「……で?」
「だから、……これからは私に……構ってくれなくていいから……」
寒いはずなのに、なぜか汗が噴き出してくる。
やけに喉が乾いて、時折咳払いをしないと声がうまく出せない。
「……わかったよ。要は、俺に話しかけられると迷惑だから話しかけんなってことだろ?」
土橋くんはフッと口元だけ笑うと、もたれていた柵から離れた。
「ち、違うよ! 迷惑なんかじゃない! そ、それに土橋くんだって私なんかと二人で話していたら郁美に悪いでしょ!?」
すると土橋くんはキッと私を睨みつけ、
「郁美のことは関係ねぇだろ!! よけいな口出しすんじゃねーよ!」
と、錆びついた柵を思いっきり蹴った。
咄嗟にビクッと体を縮こませ目をつぶる。
蹴られた柵がガーンと振動で震えて、その音がやけに耳にいつまでも残っていた。
非常階段のドアノブに手をかけながら、土橋くんは私の方に振り返り、
「安心しろ、もうお前には話しかけねぇから。せいぜい頑張れよ」
と、冷たく言い放ってからチッと舌を打ち鳴らした。
そしてバンッと叩きつけるようにドアを閉めると、廊下をズンズン歩いて行った。
一度も振り返ることなく、少しずつ小さくなっていく背中をドア越しに見つめながら、私は激しく動く心臓を宥めるようにそっと胸に手を当てた。
これでいいんだ。
自分のシミュレーション通りにはいかなかったけど、結果として土橋くんと絶交できた。
それなのに、取り返しのつかないことをしてしまった後悔の気持ちだけが自分に襲いかかってくる。
「教室、戻らなきゃ……」
寒さなのか、恐怖なのか、思わず身震いしてブレザーのポケットにに再び手を突っ込んだ。
ビニール袋の手触りに気づき、思い出したかのように、オマケの入った包みを取り出して見る。
包みからは中のエンジェルベアがどんな色なのかは見えない。
私は鼻をすすってから包みを開くと、ハッと目を見開いた。
「今さらこんな色……」
目に映ったのは、レアと言われている、恋が叶うと噂のピンク色のエンジェルベア。
次第に涙が溢れてエンジェルベアの上にポタリと落ちた。
「全然効き目ないじゃん……」
私は、彼がくれたストラップをグッと握りしめるとそれを目元にあて、その場にしゃがみこんだまましばらく動けずにいた。