絶交-4
数日間、何度も頭の中で彼に言う言葉を探して。
土橋くんと距離を置くのに自然な理由をずっと頭の中で考え、答えが見つかったときは涙が止まらなかった。
でも、距離を置いたって泣くのはきっと私一人。
私なんかに距離を置かれたところで土橋くんにはなんのダメージもないだろうことを想像すると、自分が滑稽にすら思えてくる。
所詮私は、悲劇のヒロインにすらなれないのだ。
むしろ私がこれから言うことは、彼にとっては新たなからかうネタにされるかもしれない。
それでも土橋くんと距離を置くのに、私が考え得る一番最良な方法はこれしか思いつかなかった。
友達思いの土橋くんなら、協力してくれるだろうし、きっと円満な形で彼とは徐々にフェードアウトできるだろう。
そうすれば、きっと私も彼のことを諦められる。
そう思って、私は震えた唇をゆっくり開いて彼の顔を見上げた。
「……実はね」
声を絞り出して言葉にしようとするが、うまく声が出せない。
口に出したら、きっともう今まで通りに戻れないという名残惜しさが、私の口を塞いでいる。
彼はそんな私を急かすわけでもなく、いつものようにおちゃらけた様子も見せるわけでもなく、やけに神妙な顔で私の言葉を待っているようだった。
非常階段のドアの向こうはいつものように騒がしく賑やかなのに、ドア一枚隔てたこちらの空間は、親に怒られているときのような張り詰めた空気が立ち込めている。
私はこの空気に呑まれそうになるのをこらえるかのように、ギュッと目を閉じて咳払いをしてから、再びゆっくり目を開けた。
「最近……好きな人ができたんだ」
言い終えて土橋くんの表情を見ると、彼は眉をひそめ何かを考えているような顔をしていた。
てっきり冷やかしてくるかと思ったのに、意外な反応に少し驚く。
そしてしばしの沈黙の後で、彼はゆっくり薄い唇を開いた。
「……誰」
心なしかいつもより少し低い声に怯みつつ、私はなんとか声を出した。
「同じ……クラスの……歩仁内(ぶにうち)くんなんだけど……」
「……ああ、生徒会の奴か」
なんか、怖い。
私が頭の中でシミュレーションしていた土橋くんの反応は、いつもの意地悪そうな笑みを浮かべて冷やかしてくるというものだったのに、目の前の彼の様子はまるで私の予想とは違っていた。
土橋くんは口をへの字に曲げてドスッと階段の柵に寄りかかった。
想定外の彼の反応に、私はすっかり萎縮しちゃって、髪の毛をいじりながら俯いた。
歩仁内くんとは同じクラスってだけで、話をしたことはなかった。
彼は生徒会に入っていて、明るくて爽やかで、クラスのムードメーカー的存在の男の子で、地味な私とは正反対のタイプである。
正直、好きどころか意識すらしたこともなかったけど、彼を好きと言えばリアリティがありそうなので、彼を好きだということにしたのだ。
勝手に好きになる演技をするだけなので、歩仁内くんにも迷惑はかけないはずだ。