絶交-3
「……なんか悩みとかあるのか?」
彼は心配そうな顔を私に向ける。
そんな風に心配してくれるのは嬉しくてたまらない。
でも、その度に郁美の影がチラついてくるのも事実で。
土橋くんの優しさを感じるたびに、郁美と自分を比べては落ち込んでしまう。
もう、こんな気持ちにとりつかれるのは嫌だ。
私はずっと噛み締めていた唇を緩め、
「そう。……だからお昼食べたら相談にのって欲しいんだけど」
と、意を決した顔で彼に向き直った。
“絶交なんてしたくない”
その想いだけが今まで私を身動き取れずに縛り付けていた。
でも、届くわけがない想いにいつまでもしがみつき、土橋くんと郁美の姿を思い出しては、自分を追い詰める日々を過ごすのもそろそろ限界になってきた。
……そろそろ潮時なんだ。
「あ、ああ」
何も知らない土橋くんは、私の真剣な表情に少し戸惑いながらも頷いた。
私はニッコリ笑って、
「じゃあ早くお弁当食べようっと。食後のデザートもあるし」
と、机の隅にポツンと置かれたチョコレートに目をやった。
「全く、現金な奴だな」
彼は呆れた顔でそう言いながらも、どことなく安心したかのように見える。
「だってそのために買ってきたんでしょ?」
「ん、まあな」
彼は少し顔を赤らめて視線を下に落とした。
せめて最後くらいは笑って過ごそう。
私は心の中でポツリと呟いた。
◇ ◇ ◇
二人でお昼を食べ終えたら、以前沙織と授業をサボって話をした非常階段の踊場に移動した。
暖かい季節なら、昼休みはカップルや女の子達がおしゃべりする場として賑わうのだけど、12月ともなると北国の寒風にさらされるため、その賑わいはもはや、見る影もなかった。
「……寒ぃな」
土橋くんは肩を狭めてズボンのポケットに手を突っ込んだまま言った。
「ちょっと場所選び、間違えちゃったかもね」
私も真似してブレザーのポケットに手を突っ込む。
すると、ポケットの中でカサッとさっきもらったオマケのストラップが入った袋が手にあたった。
「そういや、オマケホントにもらってよかったの?」
「別に俺はいらねえもん。でも、あのチョコレート、よく売り切れる割にはたいして美味くなかったな。ただ甘いってだけで」
「確かに」
「多分もう買うことはねえな」
彼は小さく笑い、柵の向こうに見えるどんよりした空を見上げてからおもむろに口を開いた。
「……それより相談ってなんだ?」
いよいよきた。
私は唇をキュッと結んで下を向いた。
前日に降った雨のせいか、コンクリートの階段がまばらに濃いグレーになっていて、所々に水がたまっている。
私はなんとか自分を落ち着かせようと小さく呼吸を整えていたけど、それとは裏腹に、心臓はこれ以上ないくらいにバクバクと激しく脈打っていた。