絶交-2
口を尖らせて「ケーチ」と呟いて教科書やノートをしまい込み、代わりにお弁当の袋を机の上に置く。
ガサガサとランチマットを広げ、弁当箱の蓋を開けると土橋くんはジッとそれを見つめて、
「その唐揚げくれよ。そしたら半分やるし、オマケもやるよ」
と言いながらおにぎりの包みを開いた。
「……やだ」
素っ気なくそう言って、わざと唐揚げを口に入れて、もぐもぐと咀嚼してやる。
土橋くんの呆れたような、悔しいような顔がやけに私を勝ち誇った気持ちにさせた。
それがなんだか楽しくて、クスクス笑いながら他のおかずに手をつけようとすると。
私の箸より先に、土橋くんの骨ばった大きな手がすっと伸びて、もう一つの唐揚げをヒョイとつまんで口に入れた。
「あっ、ちょっとやめてよ!」
「おせえよ」
彼はさらに勝ち誇った顔をして、大げさにもぐもぐと口を動かした。
「図々しいなあ」
「でも、お前んちの唐揚げ美味いよな。手作り?」
「……うん。お母さんのね」
「だろうな。どうせお前は料理とかしないんだろ?」
勝手に決めつける土橋くんのにやついた顔がやけにムカつく。
「するよ。カレーとか……、サラダとか……」
でもいくらムカついた所で、実際は彼の言うとおりだったので、語尾が弱くなってしまった。
「んじゃ、今度俺になんか弁当作ってきてくれよ。審査してやっから」
「……うん」
下を向いてボソッと頷くと、彼はニッと笑って、
「絶対だぞ」
と、私の頭にポンと手を置いた。
キュッと胸が苦しくなるとともに郁美の顔が浮かんでくる。
土橋くんの顔を見れなかったのは、お弁当を作る自信がないわけじゃなく、この約束は守れそうになかったから。
彼はきっと私が料理に自信がないから俯いているだけだと思っているだろう。
郁美から、土橋くんと絶交してと言い渡されてから、どうやって彼から距離を置こうかずっと考えていた。
でも学校に来れば視線は必ず土橋くんの姿を探しているし、彼の姿を見つけると心臓が跳ね上がる。
話をしないように決めても、耳が土橋くんの声を探しているし、少し気だるそうな声で“石澤”と名前を呼ばれると胸が苦しくなる。
土橋くんの言動一つ一つがとても愛しくてたまらないし、せめて学校にいる間くらいは独り占めしたかった。
でも、その度に土橋くんにつけられたというキスマークを得意気に見せた郁美の顔が脳裏によぎる。
私はふと、おにぎりをすでに食べ終え、パンを持ち始めた土橋くんの大きな手を見つめた。
この手でどんな風に郁美を抱いていたのか、想像したくもないのに勝手に頭がどんどん暴走してしまう。
私はギュッと目を瞑り、プラスチックの箸をグッと握りしめた。
「おい、お前最近変だぞ」
そんな私の様子がおかしかったのか、土橋くんは食べかけのパンを机の上に置くと、眉をひそめて私の顔をまじまじと覗き込んできた。