嫉妬-1
「ねえ、これ可愛くない?」
沙織が服を広げて私に見せる。
淡いピンク色で、シフォン生地の肌触りの良さそうな長袖のワンピース。
「あ、可愛い! 沙織きっと似合うよ!」
そう言うと、沙織は嬉々として服についていた値札のタグを見た。
けれど次の瞬間、苦笑いだけを浮かべて、何も言わずに再び元にあった場所に戻した。
私と沙織はそんなことを繰り返しながら、小綺麗なショッピングモール内を歩いていた。
田舎にできたショッピングモールは私達学生にとって、放課後を過ごすのにかっこうのたまり場だ。
今日は久しぶりに沙織とここに訪れ、洋服を見てまわったり、雑貨を買ったり。
私達高校生のもらうお小遣いではそんなにしょっちゅう服を買えないので、冷やかしがほとんどだったけど、ウィンドウショッピングだけでも十分楽しめた。
ある程度店をまわって、気が済んだらフードコートで休む、これが大体のお決まりコース。
土、日ならばこの広いフードコートがほぼ満席になるくらい混むけれど、平日の午後は私達みたいな学生や、小さな子供を連れた主婦、大学生らしい若者達などがちらほら座っているだけで、ほとんどガラガラだ。
フードコートに着いた私達は、まず真っ先にファストフードのテナントに向かい、短い行列の最後尾に並んだ。
私達はそれぞれ飲み物だけを買って席につき、一息ついていた。
「欲しい服あってもホイホイ買えないんだよねー。あーあ、バイトしたいなあ」
沙織はそう言って、いつの間にか持ってきていた無料の求人誌をテーブルの上に置いて、パラパラめくり始めた。
「うちの学校バイト禁止だもんね」
暖かいカフェオレを少し口に含んで、私も一緒に求人誌に目を移しながらそう言った。
「そうなんだよねぇ。バイトできたら倫平ともっといろんなとこに遊びに行けるのになあ」
沙織はストロベリーシェイクをズズッと音を立てて飲み込んだ。
「ねえ、じゃあ大山くんとデートするときはどこ行ってんの?」
「うーん、だいたいはカラオケ行ったり、街をぶらぶらしたり……かなあ。あ、そうだ! こないだ倫平とプリクラ撮ったからあげるよ!」
沙織は隣に置いていたカバンを開け、中からピンクの手帳を出して広げた。
「これと……これ!」
沙織に渡されたプリクラを見ると、一枚目は二人ともすましたような顔で微笑んで並んでいる。
もう一枚は、ぎこちないながらも大山くんが沙織の肩を抱いているプリクラだ。
いつも通り可愛く笑う沙織に対して、若干こわばった表情の大山くんを見るとクスリと笑いがこみ上げてくる。
二人はとても幸せそうで、プリクラの中の沙織の笑顔がとても眩しかった。