嫉妬-8
私は身体をムックリと起こし、階下の様子に耳を傾けた。
お母さんと郁美の楽しそうな会話が聞こえてくる。
あらあら悪いわね、とお母さんが甲高い声で笑っている。
郁美、何かお土産を持って来たんだろうな。
郁美は小さな頃から愛想もよく、このような気遣いもできるので、私の家族からの評判はすこぶる良かった。
昔から、郁美ちゃんみたいにニコニコしてなさいとか、郁美ちゃんを見習いなさいとか、何かと彼女を引き合いに出されるのが嫌でたまらなかった。
郁美とはスタートラインが違うのに、どうして追いつけ追い越せと急かすのだろう。
私が、郁美に追いつくことなんて一生無理なのに。
勝手に舌打ちが出た私は、郁美が階段を昇る足音を聞いていた。
やがてドアがノックされて、私が素っ気なく返事するとガチャリとドアが開き、郁美がニコニコしながら部屋に入ってきた。
「お邪魔しまーす」
郁美は慣れた様子で、部屋の真ん中に置いてある小さなガラステーブルの前にちょこんと座った。
スウェットにジーンズとラフな格好だったけど、郁美が着てるとそれすらお洒落に見えてくる。
「なんか桃子の部屋に入るの久しぶり。いつ以来かなあ」
「全然会ってなかったもんね。元気してた?」
「最近はもう元気いっぱいだよ、修ともうまくいってるし。あ、そうそうこれね」
郁美は小さなバッグからあらかじめ切ってあったプリクラを取り出すと、私に渡した。
土橋くんと二人肩を並べて撮ったプリクラは、郁美はバッチリの可愛い笑顔で、アイツはめんどくさいといった感じで仏頂面で睨むように写っていて。
「……ありがと」
プリクラを手に取ると、胸がズキッと痛んだ。
「修ってホント愛想のない顔してるよね」
郁美はクスクス笑って私に言う。
でも、めんどくさそうな顔する彼と、ニコニコ楽しそうな郁美がかえって普段の自然体な二人をそのまま表しているようで、それが羨ましくて仕方なかった。
「……ヨリ戻してもうすぐひと月だっけ?」
「そうそう! あっという間だよね。もうすぐクリスマスだし、修に何あげようか迷ってるんだ」
そう言いながらも郁美は嬉しそうだ。
もうすぐ訪れる年末に向けて、街はクリスマスやら正月やら慌ただしく賑やかに騒いでいる。
でも私は郁美と土橋くんのことを考えると、その華やかな街の雰囲気すら苦々しく思えて来る。
「……クリスマスは一緒に過ごすの?」
「うん! 誘ったらOKしてくれたの」
郁美の嬉しそうな顔を見るたびに私の胸はドキドキとせわしなく動いていた。