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「お、これこれ、ちぃが好きだったお菓子だよな」
ウタが手にしていたのは、梅味のお煎餅だった。昔から好きで、祖母の家でも、ウタの家でも、私のために必ず用意されていた。それをウタが覚えていた事に、少し安堵のような気持ちが沸く。ウタの記憶容量の中に、私が少しでも空間を占めている事が、嬉しかった。
「ウタが好きなのは鈴カステラだったよね。でも売ってないねぇ」
私が棚を端から端まで見渡すと、背中側で「あったあった」と言ってウタは鈴カステラの袋をかごに入れている。
「自分達が好きな物を買ってどうするんだろうね、お茶菓子買わないと」
そう言って少し大袋の菓子が並ぶ棚から、いくつか袋を手に取り、ウタが持つかごに放り込んだ。気を利かせたウタは、かごを床に置くと、ペットボトル売り場の方に歩いて行った。清涼飲料を三本持ち、かごにスペースを作るとそれを入れる。
「あぁ、飲み物か。忘れる所だった」
「ほれ、メモ」
ウタが私に見せたメモには、母の字で「お菓子、ジュース」と書かれている。
「お菓子とジュースだけなら、メモなんていらないのにね」
「でも今ちぃ、飲み物忘れてただろ」
下唇を噛んでウタの方を見ると、ウタは「その顔」と言って笑う。目尻に皺がよる。
「悔しい時はそうやって、下唇真っ白にするんだよな、ちぃは。変わんねぇな」
かごがいっぱいになると、ウタはレジの方へ歩いて行き、もうひとつ空のかごを手にして戻ってきた。